[2020年6月27日]
中学受験における大学附属校人気が続いている。一時の過熱感はやや後退したものの、いまのところ、根強い人気が衰える気配はない。
最初に断っておくが、ここで大学附属とは、MARCHレベル以上のことを指すこととする。これより低い難易度の大学は、ここでは対象としない。国公立大学の併願対象になりうるような私立大学の附属校と言い換えれば、はっきりするかもしれない。
MARCH以上とMARCH未満では、そもそも、闘う相手も、闘い方も、全く違ってくるので、一緒にして語るのは適切でない。しかも、MARCH未満は国公立大学の受験生とは直接には競合しないし、「新共通テスト」導入不安の影響を直接には受けない。
さて、大学附属人気の背景には、都内の私立大学の定員厳格化への不安と、大学入改革における「新共通テスト」導入に伴う不安がある。
このうち、「新共通テスト」をめぐる不安は、昨年秋に大幅に後退したため、令和2年の入試で、男子受験生では、大学附属から、難関男子校や上位男子校への回帰が起こり、過熱感はかなり緩和した。しかし、女子受験生ではそうした動きは起こらず、依然として過熱が続いている。
もともと難関女子校や上位女子校の多くは女子大附属であるが、女子大附属は今回は扱わない。白百合や東洋英和や共立女子や大妻などだ。
女子の過熱が続いていることから、大学附属人気は女子が本流だと言えるかもしれない。
男子の場合、将来に国公立大学や最難関私立大学に大学入試で合格できそうな受験生なら、中学から大学付属に進む必要はない。大学入試でMARCH以上の合格をとれるからだ。まずMARCHをとってから、日程の遅い最難関私立大学や国公立大学二次試験に挑むのが王道だ。例え国公立大学や最難関私立大学に残念になっても、MARCHでよければMARCHへ進めばよい。満足できなければ、浪人して最難関私立大学や国公立大学に挑戦すればよい。
女子の場合は、過酷な受験勉強を強いられる国公立大学や最難関私立大学に挑戦したり、浪人もいとわずに闘ったりするより、手堅く大学附属の合格がとれれば十分満足という受験生が多い。
実は、大学附属校人気を支えているのは、私立大学の定員厳格化と大学入改革だけではない。
ここからが本論だ。
偏差値表の難易度では見分けはつきにくいが、難関進学校と大学附属校では入試問題の出題傾向に大きな違いがある。
偏差値の高い学校が難問を出題するとは限らない。最難関進学校だけでなく、難関進学校や上位進学校でも、難問を出題する学校が多い。ところが、大学附属校は難問を出題するのは少数派で、むしろ応用レベル問題など、幅広い中学受験生が取り組みやすい問題で構成される学校が多い。将来に国公立大学や最難関私立大学の大学入試を突破する力は必要なく、附属校の授業内容をしっかり理解できる力があれば十分だからだ。
もちろん、競争試験であるので、入試問題の難易度が下がれば、合格ラインの得点率は上がるので、競争が緩和するわけではない。
しかし、大学附属入試では、難問には対応できない受験生にもチャンスが生まれる。これが、大学附属人気を支えている大きな理由の一つだと考えられる。
塾など受験のプロから、最難関や難関ではなく、大学附属はどうですかと打診されたら、しかも早慶系ではなくMARCH系以下をすすめられたら、難問系難関校への合格は難しいと思われたと解釈した方がよいかもしれない。
難問と難関の違いは、都公立中高一貫校の例で考えると、わかり易い。
九段だ。
おなじような難易度の他の都立中とは、攻略の仕方が全く違う。
九段は、千代田区民枠(A区分)があるので、入試問題を難問ばかりで構成すると、都民枠(B区分)の選抜には有効だが、A区分の選抜に課題が生じてしまう。
そこで、やや平易な適性検査問題で構成して、代わりに問題量を多くするという出題の仕方になっている。
適性検査2と適性検査3ともに、一つ一つの問題はさほど難しくはないが、大量の問題数を、高速かつ高い正答率で競い合う入試だ。適性1は、適性2や3よりやや得点しづらいが、力のある受検生にとっては、都立共通問題の適性1よりも安定して高得点が取りやすい。より確実に合格を目指すなら、この「安定して」が、実は極めて重要となる。
適性2と3は、それぞれ45分という時間制限の下で、16ページから18ページに及ぶ問題に、ほぼ全問正解しないと合格できない。これはこれで、非常に難易度の高い闘いとなる。
難易度の高くない問題で構成されていれば、過去の入試問題を見ただけだと、多くの受験生親子が、合格できるかもと感じやすい。これが九段人気の特徴的な要因の一つだ。これは大学附属人気にも通じると思われる。
超難問や難問レベルの入試問題ではなく、応用・発展レベルの入試問題で構成される入試では、闘い方が違ってくる。
誤解を恐れず言い切ってしまえば、大学附属を攻略するために、大手中学受験塾に通って、難問に挑む受験対策を、苦しみながら続ける必要はない。むしろ難問対策に足を取られて大学附属の合格を逃しかねない。
この点を、最初から理解し、最初から適切な戦略で受験対策を組んだなら、大学附属への合格は難しくない。
むしろ、大学附属を目指すなら、大手塾の高い塾授業料も、強いストレスも、過酷な受験勉強も、ほとんどは無駄だ。もっと言えば、間違った戦略だ。
これが大学附属の攻略方法だし、知ってか知らずか、高い人気を支える要因でもある。
難点がある。
大学附属は授業料が高額になる学校が多いことだ。慶應系は多くの人の知るところだとは思うが、早大学院も結構高い。青学も高い。法政も高い。中高6年間通わせて、かつ大学も私立大学となれば、10年間の学費は相当な金額になる。覚悟しておかなけらばならない。
経済的に余裕がない親子には「奥の手」がある。
高校から大学附属に入学するという手だ。
私立高校の授業料無償化で、高校3年間の授業料負担はかなり軽減される。中学が地元公立中学なら、中学3年間の授業料の負担も実質ない。
しかも、推薦入試(単願入試)を実施している大学附属高もあるから、希望の大学附属が高校募集も行っているのであれば、そちらも詳しく確認しておくとよいだろう。
私立高校推薦入試(私立高校単願入試)の場合、「内申」が重要なカギを握る場合が多い。「内申」で「オール5」や「ほぼオール5」が取れる見込みがあるなら、中学受験はパスして、地元公立中学に通い、実質無試験に近い推薦入試で、大学附属を目指すという戦略もある。
もちろん、地元公立中学で高内申を取れるかどうかは、事前にはわからないだろうから、中学受験で大学附属に挑戦する意義はある。中学受験と高校受験の二段構えで挑戦するのもよいかもしれない。
小学6年間「オールよくできる」でも、中学で「オール5」がとれるとはかぎらない。「オールよくできる」だった人のほとんどは、中学では「平均4」付近からのスタートとなる。「オールよくできる」の生徒間にも大きな実力差があるから、上は「オール5」から、下は「オール4未満」まで幅が広くなる。絶対評価になって、単教科の「5」は相対評価時代よりかなりとりやすくなったが、誰もが「オール5」をとれるわけではない。
大学附属を狙うなら、不適切な戦略は排除し、適切な戦略で準備を進めるべきだ。
難関進学校を目指すような受験対策を続けることが適切なのかどうかも、しっかりと検証されることをお勧めする。
また、巷には大学附属中高受験の専門塾もあるようだが、高級すし店が、客の懐具合を見透かして高額な代金を請求するかのごとく、超高額な授業料を提示してくるところもあるようなので、冷静にご判断されたし。
大学附属に限らず、高い授業料を払えば確実に合格できる訳ではないことくらい誰にでも分りそうだが、超高額授業料の大学附属受験専門塾が繁盛するということは、誘惑に目が眩んでしまう受験生親子が多いことの証しなのだろうか。