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三田学院

[2020年7月26日]

【判断力】の盲点

人の判断力の盲点について書いておこうと思う。バイアスと言ってもいいかもしれない。

顕著な事例が、中学受験における志望校選択だ。

教育雑誌や、情報雑誌の教育特集などに露出度の多い学校で人気が高まる事例が顕著に発生している。

具体的な学校名を上げるのは差し控えるが、この日記で何度も書いてきた学校なので、読者の皆さんの中には、お気づきの方も多いだろう。

メディアへの露出が多いと、良い学校だ、自分の子に合った学校だと、勘違いしやすい。しかも、自分だけがそう判断しているのだと勘違いしやすい。

蓋を開けてみると、極端な受験者数の増加が起って、難易度に急激な変化が起こり、当初の思惑通りに合格を得られなかったりするが、そもそも本当に、良い学校だったのか、自分の子に合った学校だったのかは検証されないまま終わることが多い。

これは、様々な場面で起こる。

塾選びでも同じだ。メディアやジャーナリストは、大手塾の記事をを扱わないと、多くの読者を引きつけられず商売にならない。もともと知名度の低い中規模塾や小規模塾を扱うのはリスクが大きいから、よほど取材力や説得力のあるジャーナリストでなければ扱わない。情報の非対称性から、初心者ほどジャーナリストの意見に影響されやすい。結果、大手塾ほど、自分たち親子に合った塾だという判断に陥りやすい。それが良い結果を生むかどうかは別の話しであることは言うまでもない。

これは、就職活動でも起こる。就活を専門にするジャーナリストは、すでに事業が軌道に乗り、採用規模が大きく、雇用条件の良好な企業を特集するのが安全な商売となる。この結果、大企業ほど人気が過熱し、実力のある中小企業や、将来性のあるベンチャー企業に、優秀な人材を惹きつけるような役割は果たせていない。

最近、メディアは、コロナでもおなじ錯覚を提供している。

メディアは、感染者数ばかりを衝撃的に報道する。視聴率を稼ぎやすいからだ。情報の消費者である一般市民は、感染者の増加ばかりに注目するようになる。

しかし、最も注視すべきなのは、感染率(陽性率)と重症率であることは、少し冷静に考えれば分かることだ。

感染者数の多寡は、検査数の多寡に依存する。つまり、検査人数を増やせば、感染者数は増える。

政府や官僚や専門家も、そのことは十分に承知しているから、感染が拡大し始めた3月〜4月は、検査数を増やすことに消極的だった。いたずらに国民の不安を煽ることになることを警戒したのだろう。

緊急事態宣言の解除後、検査体制の整備が進み、検査数も格段に増えた。この結果として、感染者数は国内史上最大人数を更新するようになった。

しかし、現時点では、全体の陽性率は低いままだ。

もちろん、感染対策を緩めれば、今後は感染率が上昇するであろう。しかし、現時点ではそれほど高くない。緊急事態宣言が出された前回の時点より遥かに低い。

これが、緊急事態宣言や休業要請などが出されない最大の理由だと思われる。もちろん、今後に出される事態にならないなどとは言わないし、感染者数の絶対値を無視していいとも言わない。

しかし、感染者数の絶対値が増加するだけで、人々は不安になる。感染者数の多寡で判断するようにメディアに洗脳されているからだ。しかしそれは適切な判断だろうか。

塾の合格者数でも同じことが言える。合格者数が多いほど指導力の優れた塾かのように判断されがちだ。合格率が低くても合格者数が多い塾に惹きつけられる。合格率が高くても合格者数が少ない塾に惹きつけられることはない。判断の上でサンプル数(標本数)の多寡が適切に考慮されることはほとんどない。

コロナも、志望校選択も、就職先の選択も、塾選びも、みな同じバイアスで判断されている。

あなたの判断力に、盲点はないだろうか。

実は、近年、高校の「情報」の授業で、データの扱い方を学ぶようになった。数学全般が得意でなくても、確率・統計分野が得意でなくても、データ解析の基礎を学ぶことができる。

不確実な世の中を生き抜く上で必要なことは、より適切な判断ができる力を身につけることだと思う。

何のために学ぶのか、今一度じっくりと考えてみてはどうだろうか。

己の選択が、適切なのか正しいのか、検証できる力を身につけよう。

それこそが、判断力なのだから。

思考力、判断力、表現力を、望むなら、なおさらだろう。