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三田学院

[2020年8月29日]

【中学受験】2021年度の激戦ゾーン

2020年新春の中学入試は、男子の激戦が熾烈を極めた。

「巣鴨の悲劇」
「世田谷学園の悲劇」

男子受験生の絶対数が増加するとき、その学力分布は「一様分布」ではなく「正規分布」に近い形で増加する。しかも、上方が厚くなる大きな歪みがあり、「標準正規分布」とはならない。ちょうど、「ベルヌーイ分布」か、「F分布」の左右をひっくり返したような、度数分布となる。これは、公立中学の定期テストにおける得点別人数の度数分布に近く、学力の分布としてはフィット感がある。

しかし、学力最上位層の分布は上方の裾(テール)にあたり、絶対数としては大きく増加しないから、御三家は影響を激しくは受けず、新御三家や難関上位ゾーンの受験生が顕著に増加する。

2019年までは、この影響により、「芝」や「本郷」で激戦が続いていた。2020年は、さらに男子受験生が増加したため、そのすぐ下の「世田谷学園」や「巣鴨」が最も激戦となった。

2020年入試を象徴するキーワードとして、「巣鴨の悲劇」と「世田谷学園の悲劇」を上げたのはこのためだ。

代わりに、「芝」や「本郷」の過熱感は若干だが緩和した。証拠として、どちらも受験生総数の変化率が、男子受験生総数の変化率(増加率)よりも低かった。

2021年は、コロナの影響もあって、正確には読みずらいが、現小6受験生はコロナ前からすでに何年もかけて周到に準備してきているから、コロナ禍であっても戦線離脱する人数は、さほど多くないと思われる。コロナの影響は、タイムラグをおいて、現小5や現小4で顕著になりそうだ。

これを前提とすれば、2021年の激戦ゾーンは、すでに難易度が有意に上昇した「巣鴨」や「世田谷」の、ちょうどすぐ下のゾーンに移行する可能性がある。もちろん、「巣鴨」や「世田谷」の激戦もしばらくは続くだろう。

「巣鴨」や「世田谷」のすぐ下のゾーンの筆頭格は、「高輪」と「成城」だ。しかし、この2校は受験日程が違う。「巣鴨」や「世田谷」から、「高輪」や「成城」へ動きが起った場合の影響を考察してみる。

高輪:1日、2日、2日午後(算数)、4日
成城:1日、3日、5日

受験生が動いた場合に、おなじ日程に試験が実施される学校が影響を深刻に受けやすい。高輪は午後入試を除き、全日程が巣鴨や世田谷と同じだ。しかも午後の算数単科入試だけが1日違いだから、受験生が志望校を変更する際にも日程的な違和感が小さい。

巣鴨:1日、1日午後(算数)、2日、4日
世田谷:1日、1日午後(算数)、2日、4日

このため、高輪は、1日、2日、4日のすべての日程で影響を受ける可能性がある。特に4日は、これまで他の難関校に比べて相対的に合格を獲り易かったが、他の難関校同様に激戦となり、血の海となるかもしれない。

次に、「芝」や「本郷」から、「高輪」や「成城」へ動きがあった場合の影響を考察してみる。もともと、「芝」と「高輪」を併願する受験生は多かったので、「芝」から「高輪」への受験生の移動は十分に考えられる。

芝:1日、4日
本郷:1日、2日、5日

この日程から推察すると、高輪の4日、成城の5日は、かなり過酷になりそうだ。1日も難易度が上昇する可能性がある。昨年度、巣鴨も世田谷も1日の難易度が上昇している。難関男子校の2日は、1日校との併願で、もともとどの学校も激戦だが、高輪の2日は、さらに厳しくなるかもしれない。

コロナの影響で、現時点では高い精度で予測するのは難しいが、過去数年のトレンドが続くとしたら、2021年の私立男子校入試は、激戦ゾーンがやや下方にまで波及し、御三家や最難関や新御三家や難関の、ほぼすべての男子進学校で過酷な闘いが繰り広げられることになろう。

高輪や成城ゾーンは、難易度的に都立中学や学芸大学附属中に近いので、この男子校の激戦の広がりが、都内公立中高一貫校や国立大学附属中学中堅校へ波及していくおそれすらある。

芝も高輪も、本郷も巣鴨も、3日午前は入試を構えていないから、私立難関男子校受験生にとって、3日は空白地帯である。1日と2日で合格が取れない場合に備え、3日は都立中と学芸大学附属にも事前に出願を完了させておき、スタンバイしておくという作戦も考えられる。

そもそも、学芸大学附属世田谷や竹早は、私立難関校とおなじく学力試験型だから併願しやすい。都立中は適性検査型だがら心理的なハードルはやや高いが、十分に研究すれば与しやすい都立中が浮かび上がってくるはずだ。

もともと、御三家や最難関クラスの受験生に、小石川は併願校として選ばれてきた。また、桜修館や九段は中等教育学校で高校入学者がいないため、私立中高一貫校受験生親子の嗜好にマッチしやすかった。

しかし、巣鴨や世田谷学園や高輪や成城が第一志望の受験生にとって、小石川の社会の差し替えと適性3の理科、桜修館の算数の差し替え、九段の全独自問題は、それぞれにクセが強く、特別な対策が必要で負担が大きい。しかも、特に桜修館と九段は報告書評点に難があると合格が取りにくい。

そこで、共通問題が多く使われ、適性3の難易度がさほど高くなく、報告書評点の換算比率が高くない都立中が、巣鴨や世田谷学園や高輪や成城ゾーンの難関私立中受験生にとって、最適な併願都立中となる。しかし、そこまで適切に受験指導してくれる大手私立中学受験塾があるのかどうかは定かでないし、受験生親子の嗜好もあろうから、最適化がどこまで進むか予想が難しい。

しかし、どの難関私立男子校も、4日と5日は募集定員が少なく合格が取りにくいから、都内公立中高一貫校や国立大学附属中学中堅校を絡めてでも、2月3日までに目途をつけたいという思いが強く働く可能性は高い。

男子中学受験生の受難の時代はまだ終わりそうにない。