[2020年9月5日]
巷には、受検生が「不合格後も」通い続ける塾があるようだ。
それとは反対に、受検生が「合格後も」通い続ける塾がある。
大手塾が、私立中受験指導においても、公立中高一貫指導においても、受験生親子や受検生親子と、利益相反となるような指導をせざるを得ないことは、先の日記「模擬試験偏差値の怪」で説明した。
ほとんどの中堅塾も中小塾も、大手と同じだと思われる。大手のコピーのような受験指導をする中堅塾や中小塾が多い。
大手私立中学受験指導塾の中で、巷では最も高く評価されているらしい大手塾の、私立御三家への合格率は、10%を大きく割り込む。全滅する大手塾生も多いと聞く。
つまり、ほとんどの受験生親子が、当初に理想としていた目標を達成できない。
一軍に上がれそうな二軍や三軍ならまだしも、多くは、名も知れず消えていく四軍や五軍やそれ以下の雑兵として、受験生自身の勝利ではなく、大手塾の勝利のために尽くように仕向けられ、闘いが終われば捨てられる。
大手都立中受験指導塾の中で、巷では最も高く評価されているらしい大手塾の、都公立中高一貫校への合格率は、全受検生の合格率とほぼおなじだ。
つまり、ほとんどの受験生親子が、当初に理想としていた目標を達成できない。
当初の目標であった都立中学への合格という夢を実現できる確率は、この世のすべての受検生の合格率と大差がない。全滅教室も多くあるらしい。
「都立中や公立一貫校を目指す受検勉強は、従来の過酷で非人間的な中学受験とは根本的に違って、人間性を取り戻し、本来の生きる力を養う取り組み」だと、客観性も根拠もなく洗脳され、多くは年齢相応の学力を身につけることさえできないままに夢破れ、高い倍率を言い訳に捨てられる。
そして、だらしなく小学校生活を送ってきた人たちと一緒に、地元の公立中学での生活を開始することになるのだが、多くは、そこで己の学力的アドバンテージなどないことに気がつき愕然とする。
それどころか、さらに多くは、そのことにすら気がつかないまま、「新たな桃源郷を目指した旅に勧誘され」、そそくさと次の旅支度を始めように仕向けられる。
全体の生起確率とさして変わらない程度の幸運で目標を達成できた受検生も、公立中高一貫校入学後、多くは、しっかりと学力をつけてきた学友との競争で、早々に劣勢に立たされる。
話しは戻るが、実は、受験生親子や受検生親子と、利益相反となるような指導を行うことは、けっして難しいことではない。もちろん塾の運営の支障にもならない。
学力を伸長させ、合格力を向上させ、合格率を引上げ、合格者で溢れかえっても、塾の運営に支障をきたさない戦略は、あるのだ。
ただし、暴利は見込めない。そのことが、大手が取り組まない最大の理由なのだろうと思う。大手にとって、その不都合な真実を覆い隠すには、合格者数を大きく見せることが最大の戦術となる。合格率は低くてもよい。合格者数が多ければよい。合格者数を大きく見せることに寄与してくれるお客さんを、いかに多く獲得するかが、最大の目標となる。個々の受験生や受検生が、泣こうが笑おうが知ったことではないのだ。
受験生親子や受検生親子にとって、利益相反とならないような指導とは何か。
いわゆる企業秘密になるので詳しくは書けないが、受験生親子や受検生親子にとっての最終目標は何か、ということに注目していただければ見えてくるはずだ。
ただし、この実現には、受検生親子や受験生親子も理念に沿うように受検勉強や受験勉強に励むことが条件となる。指導に従わない親子や、指導を裏切る親子と一緒では実現できない。
指導を裏切る親子が、少なくない。中学受検や中学受験では指導を裏切るのはほとんどが親だ。
受験の世界全体では、親も指導を裏切るが、子も指導を裏切る。親をだまして親に指導を裏切らせる子もいる。親をだましつつ自ら指導を裏切る子もいる。親にだまされたことを知って子が指導を裏切る場合もある。シンプルに子が指導を裏切ることもある。
こうした実態が、大手が自己の利益を最優先して、利益相反を止めない理由かもしれない。
裏切り者のお相手や、裏切り者予備軍のお相手を、真面目にしていたら、塾としての業績は上がらない。指導実績でも、合格実績でも、良い結果は出ない。多くの大手は実質的に誰でも入塾させるから、誰が裏切るかを事前に見抜くのは容易ではなく、裏切り者の比率が高くなる。しかし、それは承知の上で運営しているから、裏切り者であることがわかっても、辞めさせることはしない。代わりに、どの受験生親子からも裏切られる可能性があることに前提にして、先に受験生親子を裏切っておくのが大手のシステムだ。
先に裏切った方の利益が大きくなるのが常識だ。だから、裏切りが当たり前の世界では、裏切りがなくなることはない。
しかし、裏切りのない世界では、どちらかが不当に利益を得ることはなく、公平な世界であり、利益相反は起こらない。
今春に中学を受験した塾生は、遠隔地へ進学した一人を除いて、残り全員が受講を継続してくれた。今春に高校を受験した塾生は全員が残ってくれた。合格が共通の利益であることが理解いただけるであろう。そこに大手塾のような利益相反はないのだ。
どこかの大手塾や、そのコピーのような中堅塾や中小塾のように、不合格になった受検生を残らせる戦略の塾ではなく、合格した受検生が残ってくれる塾もあるのだ。
これからも、受検生が「合格後も」通い続けてくれる塾で、あり続けたい。
本来の塾のあるべき姿でもあると思う。