[2020年9月15日]
世の中の注目が、コロナ禍による日常生活の変化に集まる中で、静かに、そして、密かに、受験市場が、ほとんど平時の状態にまで回復してきている。
緊急事態宣言が解除された6月以降の急回復は、業界関係者の誰もが驚くほど、力強いものであった。
壊滅的な状態にまで陥った多くの塾も、なんとか生き伸びた塾は、多くが息を吹き返した。ただ、失われた3ヶ月(3月〜5月や、夏期講習など)を取り戻せていない塾も多い。コロナでトドメを刺され、消えた塾や教室も多く、全体としては完全に復活した訳ではない。
コロナ感染拡大の実質的な第二波が収まりつつあり、前学年の3月から続いた長期の学校臨時休校の頃とは、受験生親子の意識は大きく変容した。
もちろん、コロナ感染拡大への警戒感が低下した訳ではない。感染拡大の第三波への警戒は依然として強い。
しかし、それを理由に受験対策を縮小しようと考える受験生親子は、いつのまにか、極めて少数派となった。
突然に「9月入学・9月新学期」が議論された頃とは違って、入学試験は、時期的にも、ほぼ例年通りに実施されるという認識が広まったこと、コロナ感染の脅威が例年のインフルエンザ感染の脅威を大きく超えるものではないという冷静な判断が広がったことが大きいと思われる。
特に、一般的な分類における、難関校や中堅校を目指す受験生親子にとって、大きな波乱は起きそうになくなった。例年通りに、しっかりと準備ができた受験生が、順当に合格を勝ち取っていくだろうと予想される。
これには、都立中受検生親子も含まれる。むしろ、都立中受検生親子こそ、例年通りに準備を進める必要性が高まっていると言える。
なぜなら、都立中受検生にとって、マンモス受験となる埼玉入試や千葉入試の影響はほとんどない。おなじく、大人数が動く2月1日や2日の東京・神奈川の午前入試の影響も大きくは受けない。加熱する私立難関校や私立中堅校の午後入試もほとんど関係ない。
むしろ、コロナ禍による経済的な不安の高まりから、私立の難関校や中堅校を第一志望としていた受験生親子が、都立中を含む公立中高一貫校を第一志望に据える動きが強まる可能性があり、警戒する必要性がある。
よって、都立中を含む公立中高一貫校入試においては、コロナ禍により、想定を超えた激戦になるかもしれないことを覚悟しておいた方が安全だ。
この傾向は、来年度にも、再来年度にも及ぶ可能性が高い。むしろ、来年度や、再来年度こそ、本格化するリスクが高い。
リーマンショックでは、製造業を中心に、大企業で雇用不安や収入不安が強まり、中学受験者数の総数は急激に減少し、その後の回復は緩やかとなり、やっと昨年に、リーマンショック前に戻ったくらいだ。
この間に、都立高校の進学校が大幅に復権し、都立中学が急速に躍進した。
家計に大きなダメージを与えるような大きな天変地異が発生すると、国公立学校の人気度や難易度が顕著に上昇するということが起きる。
今回のコロナ禍では、製造業よりも飲食業界や旅行業界や小売業界などのダメージが大きかった。大企業従業員よりも、中小企業従業員や自営業者や非正規雇用者へのダメージが大きかった。
つまり、教育費に潤沢な予算を振り向けることが、そもそも容易でなかった層を直撃した。こうした家庭では国公立志向がさらに強まり、コロナで経済的な影響を大きく受けなかった層でも将来不安から国公立志向が強まる可能性が高い。
少なくとも、来春をふくめ、今後数年間は、都立中学や都立高校や、国立大学附属中や国立大学附属校などを、受検や受験する予定をしている親子は、十分に警戒しておいた方がよかろう。
昨年度に予測し、事前予想を超えるほどに顕著になった、「大宮開成の悲劇」や「巣鴨の悲劇」は、来春の入試では、都立中や都立高校進学校で起きるかもしれない。
「都立中の悲劇」
「都立高校進学校の悲劇」
甘い考えで臨む親子はもちろんだが、例年なら合格できたはずの親子の多くも、涙を飲むような入試となるかもしれない。
受験の世界においては、このことが、本当の意味での「コロナ禍」かもしれない。