[2020年9月16日]
四谷大塚模試と首都模試の、偏差値表における都立中の相対的ポジションの違いが興味深い。
勘違いしないで欲しい。四谷大塚と首都模試の、都立中難易度偏差値の違いのことではない。
偏差値は母集団の違いによって平均や偏差が違ってくるため、模擬試験によって学校別の偏差値が違うことくらいは、どなたもご存知のことだろうと思う。
そのことについて、今さら触れるつもりはない。
ここで触れたいのは、相対的な難易度の違いについてだ。
もちろん、学力分布は一様分布ではなく、理論上は正規分布すると仮定されるので、平均つまり偏差値50からの乖離幅が大きいほど、度数が少なくなり、極端な値となりやすいことは前提としておく必要はある。
前置きが長くなってしまったが、ここからは具体的に話しを進めたい。
まず、九段B女子と普連土学園を、例にとってみよう。
首都模試偏差値:九段B66、普連土61(1日午前)→差は−5ポイント
四谷大塚偏差値:九段B60、普連土49(1日午前)→差は−11ポイント
首都模試と四谷大塚の差の違いは6ポイントで、四谷大塚は首都模試より、九段Bを6ポイント難しいと評価していると言える。
*首都模試は、2021年入試用、予想9月版(現時点の最新)
*四谷大塚は、2021年度用、7月21日版(現時点の最新)
次に、九段B女子と品川女子を、例にとってみよう。
首都模試偏差値:九段B66、品川女子62(1日午前)→差は−4ポイント
四谷大塚偏差値:九段B60、品川女子51(1日午前)→差は−9ポイント
首都模試と四谷大塚の差の違いは5ポイントで、四谷大塚は首都模試より、九段Bを5ポイント難しいと評価していると言える。
二つを平均すると、四谷大塚は首都模試より、九段Bを5.5ポイント難しいと評価していることがわかる。
四谷大塚の模試を受験校選択の判断に利用している受験生親子は、首都模試を受験校選択の判断に利用している受験生親子より、都立中学をより難しいと感じるだろう。
逆に、首都模試を受験校選択の判断に利用している受験生親子は、四谷大塚の模試を受験校選択の判断に利用している受験生親子より、都立中学をより易しいと感じるだろう。
どうして、このような事態が起るのであろうか。
次のような仮説が考えられる。
一つ、難関中学を目指し学力試験型で受験対策をしてきた受験生ほど、特に大手私立中学受験指導塾に一貫して通い、成績上位にある受験生ほど、学力試験型では強みを発揮できても、適性検査型の入試では、相対的に弱い傾向にある。
一つ、難関中学を目指し学力試験型で受験対策をしてきた受験生で、大手私立中学受験指導塾などには通わずに学力試験型で準備をしてきた受検生は、学力試験型で強みを発揮できる度合いは、相対的に若干低いものの、適性検査型の入試では、相対的に強い傾向にある。
この仮説が正しければ、大手私立中学受験指導塾に一貫して通い、高難易度の学力試験型で受検対策をしてきた受検生よりも、大手私立中学受験指導塾には通わず、高難易度ではない学力試験型で受検対策をしてきた受検生の方が、都立中学への合格可能性は、格段に高くなるということになる。
もしそうであれば、都立中が第一志望なら、大手私立中学受験指導塾に通って難関私立中を目指すような準備をしながら「隠れ都立中受検生」として受検準備するよりも、大手私立中学受験指導塾ではない私立中学受験指導塾に通い、私立中学を目指すような準備をしつつも、「逃げも隠れもしない都立中受検生」として受検準備した方が、格段に合格に近づきやすいことになる。
しかも、大手都立中専門塾などで適性検査型の受検対策に専念するよりも、私立中学進学校への同時合格もつかみやすくなり、都立中が残念になったとしても、地元公立中学や、適性検査型入試を行う相対的に入学難易度が平易な私立中学だけではなく、難関私立中学に進学するという選択肢も得られる。
事実、都立中受検生で、私立中学を併願した塾生は、普連土や品川女子に次々に合格している。都立中合格者に至っては100%が普連土や品川女子などの難関私立中学に合格している。しかも、複数の難関私立中学から併願合格を勝ち取り、良い意味で進学先を選べる入試結果になっている。
都立中学や公立中高一貫校を辞退して、難関私立中学へ進む道が開ける。そのような道を選んだ塾生もいる。特に男子は将来の大学進学を念頭に置けば、有力な選択肢だと思う。小石川を除けば、都立中学の難関大学合格「率」は、おなじような難易度の難関私立中学の難関大学合格「率」に、いまだに見劣りする。ここでも、難関大学合格「数」だけに目を奪われて判断を誤ってはいけない。特に、最難関国立大学合格者「数」ばかりに目が行きがちな受験生保護者が多く見受けられるが、学内中位層や下位層の進学実績も、もっとしっかり分析すべきだろうと思う。
当たり前のことではあるが、都立中入学後に、誰もがトップを取れる訳ではない。学内順位1番もいれば、学内順位120番や160番など、ビリになる人も必ずいる。
もちろん、女子であっても、都立中学や公立中高一貫校を辞退して、難関私立中学へ進むという判断は、ありえる選択だと思う。特に、難関私立大学附属中はもちろんだが、有名私立女子大学附属中も、安心感とお得感は、計り知れない。
そもそも、高校受験に回った場合に、特に女子は選択肢が極端に狭くなることも、中学受検を終える前には必ず、できれば中学受検を考え始める際に、よく比較検討されておかれることを強くお勧めする。
今や、高校受験では、都立高校進学校に残念になった場合の選択肢がどんどん貧弱になりつつある。魅力的な選択肢がほとんどないと言ってよいような状況だ。豊島岡女子の高校募集停止が象徴的である。それ以前に、すでに名門女子校はこぞって高校募集をしていない。難関私立高校共学校の道は残ってはいるが、恐ろしいほどに狭き門だ。どこかの都立中に合格できればよいとするよりも、むしろ難しいのでないだろうか。
大手都立中専門塾などで適性検査型の受検対策に専念すると、多くの受検生は、といより、ほとんどの受検生は、難関私立中学の併願合格を手に入れることは難しい。学力試験型入試に歯が立たない。
都立中が第一志望で、難関私立中にも併願合格したい受験生は、戦略を見直すべきではないだろうか。
また、隠れ都立中第一志望の難関私立中受験生も、戦略を見直すべきではないだろうか。
難関私立中合格に専念したいなら、大手私立中学受験指導塾に通うのも良かろう。ただし都立中に欲を見せると厳しい結果となりかねない。難関私立中まで落としたら、もともこもない。
都立中学受検をするけれど、残念になったら地元公立中学でかまわないという受検生なら、大手都立中受検専門塾に通うのもよかろう。ただし難関私立中に欲を見せると厳しい結果となりかねない。それどころか、地元公立中学に進み高校受験する場合でも、小学生時代に、適性検査入試対策主体の準備しかしていないと、人生の大筋が決まる高校受験や、天下分け目の決戦となる大学受験で苦戦しかねない。
都立中合格の妄想を糧にしつつ、実は、将来の高校受験に備えて、小学生のうちからノー勉癖がついてしまうことだけは回避したいという小学生なら、大手都立中受検専門塾はありだろう。みんなで仲良く不合格になれるので、自己肯定感や自己有能感を大きく損ねることなく、地元公立中学へ仲良く進学できる。大手都立中受検専門塾も、そのような小学生がドンドン入塾してくれるのは大喜びだろう。小6と中3の二度に渡って、しっかり儲けさせてもらえるのだから。
小5頃まで大手私立中学受験指導塾に通い、小6頃から大手都立中受検専門塾に通うという戦略もあるようだが、首尾よく戦略が成功する確率はどのくらいなのだろうか。まだ幼い受検生が受験の前から大混乱してしまうかもしれない。どちらの大手も、それぞれに最適化を図ろうとしているので、変更した場合に連続性がない。少なくとも、リスクを一手に受検生親子が負うことになるかもしれないことは覚悟しておいた方がよいかもしれない。