[2020年10月21日]
今週初め、令和3年度の入試予想をアップしたが、そのちょうど翌日に、教育研究所を名乗る有名な民間教育評論家が、1日遅れで、入試予想を公表した。
多くの人が読むことを想定していることもあろうが、当たり障りのない分析に終始していることが特徴的だ。
着目しているのは、出願倍率の変化と、新入試の追加、程度である。いずれも表面的な分析しかされていないという印象をぬぐえない。
何度も指摘していることだが、入試倍率が、難易度変化の決定因子ではない。倍率が高くても難易度が高くなるとは限らないし、倍率が低くても難易度が低くなるとは限らない。過去の日記でも検証済みである。
倍率と難易度が決定的になるのは、定員割れから定員充足になった時と、定員充足から定員割れになった時、くらいだ。
例えば、ある難関校の倍率が、10%とか20%とか動いたとしよう。この際に、志望校を変更したのは、そもそも合格が確実な層ではない。多くは、合格に絡まない層だ。よって、10%倍率が動いたとしても、10%相当の難易度が動くとは限らない。この程度の変化なら、ほとんど影響はない。
難易度は、そのほとんどが、倍率の変化とは違った要因で動く。
ところが有名評論家は、倍率の変化にばかり特に注目して、もっともらしい評論をたれる。何も知らない受験生親子はそれを鵜呑みにする。
この表面的な分析や解説は、別の有名評論家でも顕著に見られる。だれもが知る過去問に関係する企業に属する評論家だ。
倍率の変化ばかりを解説する。
倍率が非常に高いと、厳しい入試だったと、決まり文句をたれる。
倍率が高くなると、厳しい入試になったと、決まり文句をたれる。
その程度の分析なら、職業評論家でなくても、素人評論家でもできる。データ解析の基礎基本を心得ている保護者なら、おなじレベルのことができるだろう。
定量分析なら、専門家でなくても、ある程度はできる。
重要なのは、定性分析が的確にできるかどうかである。
数年前だが、ある放送局が、「ビッグデータ」の特集番組を放送した。
歴史に残るような、とんでもない分析をしていたことを、今でも覚えている。
「自家用車の販売台数が増えると、新生児の出生人数が増える」
番組参加者が、驚きの表情を見せながら、ビッグデータのAIによる分析は、素晴らしいことを見抜くのですねと、盛り上がっていた。
「少子化を止めたければ、みんなで自家用車を買いましょう。」
とまで、マヌケなことを放送していた。
そして、だれも重大な分析の誤りに気がつかないまま、番組は終了した。
重大な間違いに気がついた人は、どれくらい、いるだろうか。
統計解析は、相関関係をあぶりだせても、因果関係はあぶりだせない。
因果関係にも着目すれば、こうなる。
誤)自家用車の販売台数の増加 → 新生児出生数の増加
正)新生児出生数の増加 → 自家用車の販売台数の増加
つまり、「赤ちゃん」が生まれ、家族構成人員数が増えたから、それに見合った移動手段や交通手段が新たに必要になり、自家用車を購入する人が多くいたのである。
自家用車を新しく買うと、新しい家族が増えるのではない。
「赤ちゃん」が産まれることは、産まれる数ヶ月前には、確定的になるから、「赤ちゃん」産まれる前に、自家用車を買う人が多く、それをマヌケなデータ解析者が、根本的に間違った分析をしてしまったのである。
それを聞いていて納得してしまう番組参加者や、そもそもその番組を作成した放送局の責任者の判断力も、褒められたものではなかろう。
こうした単純なことが見抜けないようなら、これからの新しい入試を乗り越えていくことは、難しいのではないだろうか。
それより先に、小石川の適性?の大問2で撃沈されるであろう。適性?の理科で大失敗するかもしれない。
私立中も、難関校に限らず、伝統的な4教科入試などで、思考力型の出題傾向を強めている学校が多くなってきている。私立中入試でも、知識の暗記や解法の暗記だけでは、突破しずらくなってきているのだ。
ただし、知識や解法を、軽んじていい訳ではない。
むしろ、改めて重要性が増している。
思考力・判断力・表現力のベースは、ハイレベルな知識・技能である。そして最近は、思考力・判断力・表現力に加えて、多様性や協働性も、問われるようになってきている。
多様性とは、多面的な分析力や、多面的な理解力や、多面的な発想力や、多面的な問題解決力などのことであり、単なる多様性の理解に留まらない。真実を見抜く力とも言い換えられる。
協働性は、ここでは割愛する。
表面的な分析や、単純な分析しかできない評論家の意見など、「百害あって一利なし」である。
気をつけた方がよかろう。