[2020年11月4日]
家計に余裕はないが、良い環境で子弟を学ばせたいという保護者にとって、都立中などの公立中高一貫校は、一見すると、魅力的に映るであろう。
しかし、実は、家計に十分な余裕がある家庭ほど、子弟を都立中へ進学させると、経済的なメリットが大きくなる。
公立小学校・公立中学校・公立高校という進路が、ほとんどの所得層で、「学校教育費」が最も安くなることは周知の事実だ。
ここでは、受験準備費用は考慮から外している事を、先にお断りしておく。
高額所得者になると、公立高校の授業料実質無償化の恩恵が受けられない。ここまでなら誰でも知っていることで、しかも恩恵が受けられない金額は、さして高額ではないので、高額所得者と中低額所得者で、大きな差は生じない。
しかし、「公立小学校・公立中学校・私立高校」で学ぶとなると、事情が大きく違ってくる。
政府や都道府県(ここでは東京都)の高校就学支援金を考慮すると、夫婦と子供二人の標準世帯では、家計の年収合計が約910万円までなら、段階的に、最大毎年約46万円の支援金が得られる。ところが、年収約910万円以上の家計年収の家庭では、この支援金が全額受け取れなくなるので、私立高校へ進学させるより公立高校へ進学させる方が経済的なメリットが格段に大きくなる。
つまり、中低額所得者ほど私立高校へ進学させる経済的なメリット大きく、高額所得者ほど私立高校へ進学させる経済的メリットが小さくなる。
高額所得者にとっては、「公立小学校・私立中学校・私立高校」であっても、おなじことが起る。つまり、中学から私立中高一貫校に通わせるケースだ。
高額所得者は、政府や都道府県(ここでは東京都)の高校就学支援金が利用できないので、都立中へ進学させることによる経済的なメリットが、実質的に大きくなる。
都立中で多額の学校教育費を節約できることで、その節約分を、大学や大学院や留学の学費に充当することもできる。
都立中は、実は「貧者の進学校」ではない。
以前から、国立大学の附属学校がそうであったように、都立中も「貧者の進学校」ではないのだ。
むしろ、その逆だと思った方が、実態に近い。
東京大学の学生の保護者の平均年収が、最も高額だということも忘れてはいけない。有名私立大学の学生より、難関国立大学の学生の方が、親の平均年収が高い。
地方の公立難関進学校の保護者の平均年収も、それぞれの地域の中で比較すると、やはり高い。
皮肉にも、政府や東京都の充実した私立学校就学支援金の拡充で、高額所得者ほど、公立の進学校へ進学させるメリットが大きくなってしまっているのである。
もちろん、そもそも地元公立中学は、高額所得者からは選好されない傾向にある。
ところが、都立中学となると、話しは完全に違ってくる。
難関国立大学附属校と並んで、あるいは、それ以上に、都立中や公立中高一貫校は、高所得家庭の注目を集めることになっているのである。
このことも、都立中の入学難易度がどんどん高くなる、大きな要因と考えられる。
事実、東京都の私立高校就学支援金が大幅に拡充された翌年以降に、都立小石川が異次元難化を始めている。
不都合な真実だが、都立中は「庶民の進学校ではない」のである。
政府や自治体による就学支援策は、高額所得のご家庭ほど、そのご子息が都立中を目指すことの方が、より経済的にメリットが大きくなるような仕組みとなっているのだ。
意図されたか、意図されなかったは計り知れないが、政府や自治体による就学支援策は、実態として、公立高校の復権や、公立中高一貫校の躍進に、寄与しているのだ。
加えて、政府や自治体による就学支援策により、特に高校受験偏差値で50程度未満の学力層において、実質無試験で合格できる私立高校を選好する傾向が強まっており、中学内容の総仕上げが甘いまま高校へ進学することになり、学力中間層の学力低下をまねいているという状況にも、このまま目をつぶっていていいのかどうか、悩ましいところだ。
政府や自治体による就学支援策が、学力中間層や学力低位層の就労競争力を結果として削ぐことに作用しており、将来の社会保障費用を増大させる圧力とならないか心配だ。