[2020年11月19日]
いよいよ、この冬、「センター試験」に代わる「共通テスト」が実施される。
紆余曲折の末に、予想通り「センター試験」との根本的な違いはなくなったが、細かな変更点はある。
この細かな変更点に対応し、必要があればさらに指導内容を更新していく。
すでに、大学受験数学指導と、大学受験英語指導は、ここまでに大幅な見直しを行ってきた。それは、大学入試改革とは別に、大学受験指導を巡る状況が大きく変わってしまったからだ。
何が大きく変わったのか。
少子化の影響による優秀な受験生の減少である。
この影響は、難関大学にも及んでいる。国公立大学も蚊帳の外ではない。かつて、国公立大学に進学できる割合は、一学年の生徒の約5%でしかなかったが、今は一学年の約10%になった。年齢別人口が半減したのに、国公立大学の定員は半減していないのだから、当然だ。
文部科学省が、国公立大学の教員養成学部廃止や地方国公立大学の文系学部廃止を目指した背景はここにある。猛反対で一旦廃案になったが、人口減少による税収不足と高齢化による社会福祉費用の膨張で、国家レベルの教育予算が厳しくなっているので、いずれ議論は再燃するだろうと思われる。
さて、大学受験数学指導では、長らく定番であった「青チャート」を念頭に置いた指導を、原則やめる。もちろん、これからも参照することはあろう。
代わりに、都立小石川でも使用している大学受験対策数学補助教材(以下「小石川教材」)を、主軸とすることに全面変更する。すでにカリキュラムもシラバスもシステムも変更済みだ。
この「小石川教材」、小石川とどちらが採用したのが早いのか不明だが、ともに新版を採用していることから、ほぼ同時期なのかもしれない。
小石川が使用していることを知った時、「お目が高い」と感心した。きっと、素晴らしい数学教師がいるに違いない。
教材の宣伝と思われたくないので、あえて実名は紹介せずに、「小石川教材」としておく。
いまだに、「青チャート」を使用している進学校が多いようだ。私立男子進学校ではいまでも定番である。「青チャート」こそ、進学校の証だと信じて疑わない数学指導者や受験生や保護者が多いのかもしれない。必ずしも間違いだとは思わない。しかし、そろそろ時代遅れになるかもしれない。
今の「青チャート」は、私が大学受験でお世話になった頃の数十年前と比べて、内容が大きく変容している。「ほとんど別の教材」と言ってもよいくらいに違うものになっている。
その証拠に、当時は、「青チャート」と「赤チャート」しかなかったが、今は「白チャート」や「黄チャート」、「緑チャート」や「紫チャート」や「スカイチャート」まであり、内容が細分化された。
凡その目安は以下の通りだ。
白チャート:共通テストレベル
黄チャート:国公立大学文系学部二次レベル
青チャート:国公立大学理系学部二次レベル
赤チャート:大学生になってから高校数学を懐かしむレベル
東京大学の文系数学は、「黄チャート」でも攻略が可能だ。京都大学の二次試験では「白チャート」レベルの出題がされたこともある。ただし、京都大学の数学は全体としては最難関レベルの難しさであることには違いはないので「白チャート」だけで攻略を試みるのは難しい。
機会があれば、難関大学ごとの二次試験数学の傾向についてご説明したいとは思っている。最近の傾向として、東京大学と京都大学と大阪大学を除く旧帝大では、名古屋大学が難しく、九州大学が取り組みやすいと思う。整数分野と確率分野は、どの旧帝大でも頻出となる。これに、指数・対数や、数列・ベクトルや、三角比・三角関数などが、どの程度の頻出なのかと、微分・積分の難易度がどうなのかで、対策が変わってくるだろう。
ある「授業をしない」大学受験指導塾が、「黄チャート」は「日東駒専レベル」だと、さかんに吹聴しているようだが、これも何か特別な意図があって喧伝しているのではないかと疑っている。そこまで黄チャートは易しくない。
先に示した「凡その目安」を参考にして選んでいただければ、失敗しないであろう。
「赤チャート」は、当時、開成高校くらいしか使っていなかったと思う。灘も「青チャート」だったのではないかと思う。「数学は暗記だ」の書籍で有名な、灘高校出身の著者が書いた本でも、「青チャート」を中心とした大学受験数学の攻略法が紹介されている。
これら細分化されたすべてのシリーズの「チャート」に取り組むことは、現実的ではない。
できることなら、どれか一冊を、何周もして完ぺきにするのがベストだ。
しかし、今の「青チャート」は、そもそも数学が得意で、国公立大学理系学部や、難関私立大学理系学部への合格を、無理なく目指せる大学受験生でなければ、かなり使いずらい。
もちろん、「小石川教材」にも、リスクがないわけではない。
国公立大学理系学部や難関私立理系学部の他に、難関国公立文系学部が目指せる大学受験生でなければ、十分に使いこなせないはずだからだ。
共通テストだけで数学が必要となる受験生や、数学選択で受験する上位私立文系学部の受験生が、すべての項目に取組もうとすると、難しすぎて頓挫する可能性がある。かなりの部分は取り組む必要がない。使い方に工夫が必要だ。
共通テストだけに数学が必要な受験生なら、インプット段階では、「小石川教材」や「黄チャート」は使わずに、割り切って「白チャート」だけに取り組む方が安全だろう。
「小石川教材」は、「青チャート」+「黄チャート」に近い難易度の範囲をカバーする。カバーする範囲が広くなるので、必然的に分量も多くなる。よって、使い方には注意が必要になる。ただし、「青チャート」+「黄チャート」に取り組むよりは、遥かに効率的で現実的だ。
繰り返しになるが、「青チャート」での大学受験準備は、多くの受験生にとって、リスクが大きいし、必要ないことが多い。
もし、通学校が「青チャート」を使用していて、個人的に、違和感があるのなら、「青チャート」に縛られない方がよいだろう。課題や宿題で解いて提出が求められたのなら仕方がないが、そうでないのなら、辞書代わりにでもする程度にしておいた方がよかろう。
もちろん、「青チャート」だけでも、「小石川教材」だけでも、完ぺきに理解できるなら、ほとんどの難関国公立大学の二次試験や、難関私立大学理系学部の数学は、問題なく突破できるはずだ。ただし、「青チャート」も「小石川教材」もインプット教材なので、アウトプット教材に別に取り組んで、仕上げる必要はある。
「青チャート」も、「小石川教材」も、理系志望であれば、完璧に仕上げるためには7周程度は必要だろう。取り扱いが雑な男子受験生なら、2冊ほど潰して、合計で3冊使うことになるだろうから、最初からおなじものを2冊用意しておき、1冊目は学校置き勉用に、2冊目は自宅学習用にと、使い分ける手もある。
特に、数1Aと数2Bは、授業の進度に遅れないような進度で、早々に3周しておきたい。そうしなければ、数3を攻略する時間が根本的に足らなくなる。
そうなると、高3になって、国公立大学や難関私立大学理系学部に手が届かなくなり、「青チャート」や「小石川教材」に取り組んだ意味が薄れてしまう。
次は、機会があれば、難関大学合格のための、英語の「文法・語法問題集」や「総合英語参考書」についても考察したいと思う。
ここでは「日比谷教材」が興味深い。
今度は、またもや選択が偶然に一致してしまった「日比谷教材」をご紹介したいと思う。