[2020年11月25日]
都立中をふくめ、多くの中高一貫校では「体系数学」を使って数学を学ぶ。
体系数学は、中学と高校で学ぶ6年間の数学を、中学と高校の壁を取り払って、重複などを除き、効率的に学べるように編成された数学の教科書だ。
体系数学の1と2で、中学3年間の内容と、高校内容の一部を学ぶ。多くの中高一貫校では、この体系数学の1と2を、中2までに学び終える。
つまり、中学数学3年間分を、標準2年で学び終えることになる。学校によっては、これより早いスピードで学び終える。港区内のある私立中高一貫校の中1は、コロナ休校で例年より少し遅れたが、11月末で「体系数学の1」を学び終える。
授業スピードというか、学習スピードが速くなるので、油断すると途端についていけなくなる生徒が多くなる。このため、算数は大得意だったのに、中学数学になったら不得意になってしまう生徒は多い。中学数学まではついていけたのに、高校数学で落ちこぼれる生徒は数知れない。
これを回避するためには、中学生になったらすぐに、数学の学び方を早期に身につける必要がある。体系数学も当初は簡単な内容からスタートするので、油断せずに、このタイミングで、学び方をしっかり身につけられるように注力すべきだろう。
数学学習の4つのステップは、以下の通りだ。数学共通であり、体系数学に限ったことではない。数学をものにして難関大学へ進んだ学生が、そろいもそろって同じことを語るので、定石だと言っても過言ではないだろう。
公式や定理を理解する
公式や定理を覚える
公式や定理を使えるようにする
公式や定理を使い標準問題を解く解法を理解する
公式や定理を使った標準問題を解く解法を覚える
公式や定理を使って標準問題を解けるようにする
基本問題の解法を使い応用問題を解く解法を理解する
基本問題の解法を使って応用問題を解く解法を覚える
基本問題の解法を使って応用問題を解けるようにする
応用問題の解法を使い発展問題を解く解法を理解する
応用問題の解法を使って発展問題を解く解法を覚える
応用問題の解法を使って発展問題を解けるようにする
単元や分野ごとに、それぞれのステップが完成するまで、次のステップには進まないのが鉄則だ。
特に、1つ目のステップが重要である。公式や定理を理解しようとすることは、本質を理解しようとすることでもある。
2つ目以降ステップで取り組む、「解法を理解し、解法を覚え、解法を使えるようにする」ことは、単に「解法の暗記」をすることではない。「テクニックをみにつける」こととも違う。「公式や定理の理解や、公式や定理を覚えることや、公式や定理を使えるようにすること」は「思考訓練」そのものである。「思考訓練」とは「思考すること」である。
「思考訓練」によって「思考力」は向上して行く。
「思考訓練」なしに「思考力」は育っていかない。
ここでは「数学的思考力」のことについて述べているが、他の教科でも概ねおなじであろう。
定期テスト対策までなら、3つ目のステップまで進めれば大丈夫であろう。4つ目のステップは本格的な受験準備へとつながるステップとなる。
焦って次のステップに進もうとすると、かえって逆効果になるので、それぞれのステップをしっかり攻略できてから、次のステップに進むべきだ。
もっとも重要なのは、1つ目のステップだ。
三角関数は、自動車の自動運転技術に応用できる。
微分は、経済分野の傾向把握や予測に応用できる。
積分は、大規模災害における被害予測に応用できる。
集合と論理は、ウソや悪意を見抜くことに応用できる。
そんなことを連想しながら公式や定理を学ぶとよい。
著書多数でTV出演もこなす、東京大学卒のある有名な経済学者が、あるTV番組で「高校数学の『逆・裏・対偶』だけで、大学入試一次試験の『地理』で満点を取った」と語っていたのを観て、思わず膝を打ったことがある。数学の本質を理解できれば、数学は生活の様々な場面で、実によく役に立つのである。
若き日、ケンブリッジ大学の数学専攻の学生と車座になって話した時、その場に7人いた学生のほとんどが、確か6人ほどが、哲学(philosophy)とのダブル専攻(double major)だったのを覚えている。数学と哲学(特に論理学)はとても相性がよい。「数学は哲学だ」とも、「数学は哲学の一つの領域だ」とも言えなくはない。数学は生きて行く上での指針も与えてくれる。
話しは戻るが、数学の攻略の仕方に、私立中高一貫や、公立中高一貫や、地元公立中学による違いはない。
私立中高一貫も、公立中高一貫も、進学校であれば、「体系数学」を使用して学ぶのだから、全く同じだと言っても過言ではない。また、「体系数学」といえども数学には変わりないので、公立中学と公立高校で学ぶ数学と、本質的な違いはない。
適性検査を経て入学しようが、学力試験を経て入学しようが、中学と高校で身につけなければならない数学は同じであるし、数学の学び方に違いはない。
ここから言えるのは、小学校で身につけておくべき数学の基礎は、必然的に同じになるということだ。
また、どこかの悪徳学習塾の誘い文句とは全く違ったことを言うので、面食らった方もいるかもしれない。
でも、どこかの悪徳学習塾の誘い文句を真に受けると、中学生や高校生になって数学で苦労しかねない。
もちろん、苦労するのは数学だけには限られないだろう。
知識や技能なしに、思考力も判断力も表現力も育たない。
体験や経験だけで、思考力や判断力や表現力は育めない。
空っぽの頭で問題や課題に挑んでも、何も出てはこない。