パソコン版を見る

三田学院

[2021年2月25日]

【都立中】受検倍率低下の要因

令和3年度の大幅な応募倍率低下の要因について考えておく必要があるだろう。

急激かつ突発的な低下であったから、新型感染症の拡大が一因になった可能性は高い。

しかし、私立中学受験では、顕著で大幅な倍率低下は見られなかったから、新型感染症の拡大だけでは、十分に説明できない。

定量的な分析は、入試データがそろってから精緻に行いたいと思うが、現状においても定性的な分析を試みておきたい。

令和3年度入試のキーワードとして、「安全志向」が上げられることについては、すでに述べた。

この安全志向が、都立中入試と私立中入試で、それぞれ別のベクトルをもって作用した可能性があると見ている。

私立中入試において安全志向が高まった場合、まず考えられるのは、チャレンジ校の受験回数を減らす、チャレンジ校のレベルをより可能性のあるレベルに下げる、最適校の受験回数を増やす、最適校のレベルをより堅実なレベルに下げる、安全校の受験回数を増やすなどである。これに加え、埼玉や千葉の練習校を減らすことも上げられよう。

これらはすでに確認できていて、埼玉や千葉の最難関校の受験者数が大幅に低下している。渋谷学園幕張や栄東である。また、東京都内の激戦ゾーンが、男子校の場合に、昨年度起きた芝・本郷→世田谷学園・巣鴨から、今年度は世田谷学園・巣鴨→高輪・芝浦工大附属(今年度より共学化)へと移行した。加えて、獨協や、さらに手頃な日大豊山への玉突きが見られた。

都立中においても、おなじような動きが確認できない訳ではない。都立中トップ校である小石川と武蔵は、応募倍率が顕著に低下している。一方で、これに次ぐ難易度の両国と桜修館は、ほぼ前年通りの応募倍率となった。全体の応募倍率が下げている中での前年並みはかなり激戦である。

しかし、私立中と違うのは、相対的に平易な都立中の応募倍率は概して上昇していないことだ。しかも全体の受検者数が大幅に減少していることも違う。

ここで考えられるのは、記念受験組やお気軽受験組の大幅な減少である。そもそも合格できる可能性がほとんどないことを薄々感じながらも受検していた層なので、感染リスクを冒してまで受検対策をし、感染リスクを覚悟してまで受検会場に足を運ぶことを断念した可能性がある。

この場合、もともと合格に絡む可能性がほとんどなかった受検者の減少なので、都立中の合格難易度に与える影響はほぼなかったと考えられる。

ただし、この減少を一部相殺する形で増加した受検生がいた可能性を否定できない。感染症の影響などから、第一志望を難関私立中から都立中に鞍替えした人たちだ。

感染症拡大により、全体の経済や景気への影響の他、業種や職種によってはさらに影響が大きく、私立中第一志望を再検討しなければならなかった人たちが相当数いた可能性がある。

こうした人たちには、私立中受験を完全には止めずに、3日の受験校だけ国公立に変更する人が多いだろうから、私立中受験者数にほぼ影響を与えないまま、実質都立中第一志望者として、都立中の応募倍率を下支えした可能性がある。

難関や中堅以上の私立中受験生は、そもそも自分の実力を相対化して認識する訓練ができているので、より適切な難易度の都立中に応募してくる可能性がある。よって、都立中実質単願受検生にとって、かなり手強い競争相手となる。

こうした背景から、令和3年度の都立中入試は、「倍率低下・難易度上昇」という結果になったのではないかと見ている。

こうした難関私立から都立中に第一志望を鞍替えした人の都立中合格実績が、どの塾の合格実績にカウントされているのかは、今後の調査により浮き彫りになるだろうと期待している。

ただどこまで明らかになるかは、みなさまにお願いしている「大手塾の不合格実態」によるところが大きいので、さらに多くの「不合格実態」のご連絡やお知らせをお願いしたい。

データの内容やデータの分析結果によっては、これまでも先手先手を目指してきた指導内容を、さらにチューニングしなければならないかもしれない。