[2021年4月19日]
今年度の都立高校進学校の倍率が急騰した理由を検証しておかねばならないだろう。
日比谷男子:2倍超
戸山高男子:2倍超
青山高女子:3倍弱
三田高女子:3倍超
次の4つの仮説が考えられるのではないだろうか。
1.新型感染症拡大の経済的影響
2.私立進学校の募集停止の影響
3.有名私大附属校の難易度上昇
4.併願優遇組の特攻が大幅増加
新型感染症拡大の経済的影響としては、私立高校の授業料実質無償化の恩恵にあずかれない収入基準でアッパーミドルに属する家庭で、中期的な収入見通しの不安が拡大したために、都立進学校の併願が増加した可能性が考えられる。
新型感染症拡大による経済的な影響は、政府や自治体による支援を除けば、実質的にリーマンショックを超える落ち込みだという試算もある。
収入の多い家庭は、もともと支出も多い。巨額の住宅ローンや、高級自家用車のローンや、兄姉の学資ローンなどを、すでに組んでいるなどで、すぐに支出を削減することは容易ではないことも考えられる。そこで、中短期的な支出削減策として、金額的にも大きい教育費が削減対象となりかねない。
高校授業料だけでなく、将来の大学授業料まで考慮すれば、さしあたり高校授業料を削減しておこうかという判断が働いてもおかしくはない。
次に、私立進学校の高校募集の停止である。男子校では、海城につづいて本郷が高校募集を停止した。女子校では豊島岡が高校募集を停止する。
都心部の私立男子進学校で、高校募集を当面続ける見込みなのは、開成と巣鴨と城北くらいしかない。女子校はほぼない。しかも募集定員の合計人数は桁違いに少ない。
つまり、高校受験で進学校を目指すとなると、受け皿として定員が大きいのは、都立進学校のみとなり、そこに志願者が殺到せざるを得なくなったのではないか。
三つ目、有名私立大学の付属校の人気が続いているが、有名私立大学附属高校の難易度はすでに大きく上昇しており、大学受験の難易度を実質的に超えるような水準で、お得感がなくなってしまった。
有名私立大学を目指すなら、附属校から入学しなくても、大学受験を突破すればよいのではないかという思惑が働いてもおかしくはない。そうした受験生の志願先として、都立進学校に白羽の矢が当たった可能性もある。
最後に「特攻」の可能性である。
都立高校前期日程の入試日に、受験生や受検校の迷惑にならないよう、また感染症拡大に影響しないよう、校門の反対側から、十分以上のディスタンスをとって、ある都立進学校の入学試験会場を視察した。もちろん応援はしない。そもそも、今週にその都立高を受験した塾生はいない。
この学校は、ほぼ毎年視察し、時系列的に追いかけているが、今年度は異常な光景であった。
明らかに合格に絡みそうにない受験生が相当数いたように感じている。いわゆる特攻組である。
今年なぜ特攻組が突如として急激に増加したのだろうか。ありうるとしたら、都立高校から確実に不合格をいただいて、周囲を納得させる形で希望する私立高校に進学しようとした層が急増したのでないか、という仮説くらいであろう。
こんな大変な時期に、授業料の高額な私立高校を第一志望にしてほしくないという保護者の希望に、正面切っては逆らえず、都立に不合格になれば、仕方なく私立進学を受け入れてくれるだろうという思惑で、合格可能性のほぼない都立進学校を受験したのではないかという見立てだ。
子、よく親を騙す。
このような受験生は、本心や深層心理では、都立不合格を、期待または覚悟、しているのだから、特攻の標的は難易度は高ければ高いほどよい。そこで、人気の進学校が標的として選好された可能性がある。もし仮に特攻に成功しても、格段に魅力的な学校なのだから、その都立校に入学すればよい。しかし、特攻で本来の目的が達成されることはまずない。自称悲劇のヒーローや、自称悲劇のヒロインになることだけなら、達成される。
もしかしたら、かつての都立中特攻組が、この都立高校進学校の異常な高倍率の主役だったかもしれない。
受験生親子は、それぞれの立場から、よく分析しておくべきだろう。