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三田学院

[2021年4月30日]

【都立中】男女別定員は廃止に向かうのか

全国の公立学校入試で、男女別の定員をなくす動きが、静かに加速している。

背景には「ジェンダー」への配慮がある。

今月中旬に、本件に関しては、このスタッフ日記にアップしたが、反響が大きくなるのが心配になり、いったん削除した。

しかし、削除したままでも、いずれネット上で注目を集めることになりそうだから、差し支えない範囲で書いておこうと考え直し、内容を男女別定員の件に絞って、改めて記す。

今年に入って、全国のいくつかの教育委員会が、公立中高一貫校の男女別定員を廃止する決定をしている。

もちろん、同一の都道府県内では、公立高校でも同様の扱いをするケースが多いので、公立中高一貫校に限られた動きではないことを、まず確認しておく必要がある。

現時点では、東京都と千葉県は、男女別募集を継続する姿勢を見せているが、佐賀県はすでに廃止を決定し、神奈川県は公立中高一貫校で男女別募集の廃止に向けた具体的な作業に入っていて、鹿児島県も調査を開始している。今後どの都道府県で男女別定員が廃止になっても不思議ではない。

男女別定員を設けるか否かは、さまざまな意見があろう。

ただ、それが中学入試なのか、高校入試なのか、大学入試なのか、によって、影響は違ってくるだろうと思われる。

例えば、国立大学入試で、男女別に定員を設けたら、どんな影響があるだろうか。難関国立大学では、入学社の男女比は、概ね7:3である。もし、男女別に同比率の定員を設けたら、これまでなら合格できていた多くの男子受験生が、合格できなくなるであろう。

高校入試は難易度によって影響の見え方が大きく違ってくるかもしれない。

少し古い話しだが、ある県では高校受験で男女別に合格者を出していない時期があった。このため、トップ校では圧倒的に男子の合格者が多く、高校3年次の理系物理選択クラスでは、約50人中に3人しか女子がいないというケースもあった。しかも、その3人のいずれもが、国公立大学の医学部医学科に進んでいる。

公立中高一貫校の中学入試では、大学入試などとは逆の現象が起こることが想定される。

適性検査型入試では女子の得点力が概ね高い傾向にあるためだ。得点化され合否判断に使用される報告書点も女子の方が高い傾向にある。

多くの学校で、女子の合格者数が多くなるだろうと見込まれる。

男女別定員は、是か非か。

あるいは、

男女別定員の廃止は、是か非か。

時代背景によって、判断が違ってくるのかもしれない。

では、今後どんな影響が懸念されるであろうか。

まず考えられるのは、合格の可能性に不確実性が高まった優秀な男子受験生が、公立中高一貫校を目指すことを断念して、難関私立中高一貫校狙いに回帰することだ。

実は、東京都の公立高校進学校においても、都立日比谷や都立戸山や都立西などの一部を除き、高校入試段階での女子の得点率が高い。都立三田などは、明らかに女子の方がボーダーラインが高い。

となると、公立中高一貫入試ではなく、公立高校入試に廻ったとしても、公立学校で男女別定員が廃止となれば、ほとんどの男子が、相当に不利になる。

公立学校の入試で男女別定員が廃止された際に、優秀な男子受験生が取るべき、堅実で賢明な選択肢は一つしか考えられない。

難関私立中高一貫校を目指す戦略に絞ることだ。

しかも難関男子校に狙いを定める戦略が安全だ。

そうなれば、制度的なジェンダー・レス化は、公立高校や公立中高一貫校の衰退につながるリスクがありそうだ。

小石川や両国などは、学校群制度や総合選抜制度で味わったどん底から、やっとの思いでここまで復活してきたのに、今度は男女別定員の廃止で、また奈落の底に突き落とされることになるかもしれない。

そうなれば、男女別定員廃止でいったん大喜びすることになるかもしれない女子受検生にとっても、結局は不利益が大きくなろう。

男女別定員廃止で、将来的に喜ばしい思いができるのは、これまで都立中には縁のなかった、学力中間層ということになるかもしれない。

だとすれば、公立中高一貫校の魅力の一つである、大学進学実績が私立中高一貫校並みに良好だという利点が損なわれ、公立中学と中堅公立高校の組合せと大差がなくなり、公立中高一貫校の存在価値がそもそも怪しくなる。将来的に、この世から公立中高一貫校という学校そのもの自体が、消え行くことにもつながりかねない。

好ましからぬ勢力による陰謀ではないことを祈る。

制度的なジェンダー・レス化が、実質的なジェンダー・レス化になるのかどうか、慎重に検討すべきであろうと


各教育委員会が、賢明で適切な判断をされることを、切に願う。

何も対応しないのかと責められるのが怖いのなら、都立高校入試で行っている「男女定員の緩和」を、都立中学入試にも導入してみるというのはどうだろうか。

※男女定員の緩和については、説明すると長くなるので、高校受験案内などを参照されたし。