[2021年6月6日]
有名私立大学附属校の人気が、いまだに続いている。
都立「中学」受検生の中に、有名大学附属を併願する受検生が一定数いることは把握している。ただ、どちらからも合格を取れる受検生は多くなさそうだ。
都立「高校」受験生の中に、有名大学附属を併願する受験生が一定数いることは把握している。こちらの併願はかなり多く、どちらからも合格を取れる受験生も少なくない。
この違いは入試方式の違いから生じる。中学受験では、都立入試と私立入試で、出題のされ方に大きな違いがあるが、高校受験では、その出題のされ方に大きな違いがないからだ。
また、高校受験では、都立入試でも私立入試でも、ともに「報告書(内申)」が合格判定において大きな比重を占めている点も、中学受験とは違う。
ところで、人気が続く有名私立大学附属校だが、思わぬ落とし穴があることは、広く深く認知されているようには見受けられない。
無試験で大学に進学できる「メリット」ばかりに注目が集まっているように感じられる。
大学附属校に進むことの「デメリット」を整理しておきたい。
一つ、希望学部希望学科に進めるとは限らない。むしろ、希望学部希望学科に進めない内部進学生がほとんどである。その意味で、将来の可能性を潰しかねない。
一つ、大学に無試験で進学できるため、附属校での勉学に身が入らない人がほとんどになる。6年や3年頑張れば、さらに上を目指せたかもしれないう人であっても、そのまま系列大学の意図せぬ学部学科へ進むことになる人が多い。この意味でも、将来の可能性を潰しかねない。
一つ、附属校ではない私立中高一貫校を経由するよりも、学費の総額が高額になるケースがほとんどである。さらに、公立中と公立高を経由して同じ大学に進んだ場合に比べると、桁違いに学費が高額になる。安心安全の保険料だと考えても、妥当な総額かどうかに疑問が生じる。
一つ、近年の入学難易度上昇を考慮すると、特にMARCH系は、お得感がほぼなくなっている。むしろ割高かもしれない。
一つ、附属校から有名大学に進んだ経歴を、就職活動の際に、企業側がどのように評価するかに関して不透明感が強い。特に理系学部に進んだ人に対する評価が厳しくなりそうだ。数学や理科などの科目で、実質大学受験勉強なしに大学に進んで、大学や大学院での高度な教育や研究が身につくのかどうか、不安視する企業もあると聞く。
受験指導をする立場からすると、有名大学附属校の入学難易度にはお得感がなくなったため、積極的にはお勧めする気になれない。
しかし、おなじく受験指導する立場からして、大学附属校を目指すことが有利に働くであろう受験生もいることも確かだ。
具体的に書いても大丈夫なのかどうか迷うところであるが、批判をおそれずに書いておく。
一つ、難関大学合格のカギを握る、高難易度の算数や数学が苦手だけれど、総合的な学力のバランスは良好な受験生には有利な傾向にある。
一つ、難関国立大学や医学部医学科などを目指すような、大学受験で高いモチベーションを維持できそうにない受験生にはありがたい選択肢となる。
一つ、芸術やスポーツなどに特別な才能があり、その才能を磨くことを、高校受験や大学受験で中断したくない受験生には、もってこいだ。
一つ、女子大附属の場合は、附属校を選択することが、ご家庭の教育方針や本人の希望や人生設計にフィットすることがある。系列大学へ入学できる権利を留保したまま、他大学にも挑戦できる学校も多く、将来の可能性も担保される場合が多い。
次に、大学附属とは言っても、最難関私立大学やMARCH級ではない大学附属校を目指す場合は、違ったメリットがある。
一つ、一般入試を突破するなど、正攻法での大学進学は難しい、と思われる受験生には、高卒どまりとなることを回避できる、安全安心な選択肢となる。
今後も、最難関私立大学の附属校人気は続くと思われる。しかし、MARCH以下の附属校人気は予測が難しい。特に玉突き現象で近年人気化した成成明学獨レベルや日東駒専レベルは、なにも附属校から入学する必要はないのではないかという判断に、戻るかもしれない。その影響は、MARCH系にも及ぶ可能性がある。
近年の大学附属人気は、少子化により、教育費を一点集中で投下できるようになったこと、中学受験比率の上昇による参戦者層が増加したこと、私立高校授業料が実質無料化になったこと、都内私立大学の定員が厳格化されたこと、大学入試制度の変更に伴う不安が一時的に高まったこと、などによって引き起こされた。
このうち大学入試制度の変更に伴う不安はすでに解消に向かっているし、いずれほぼなくなるだろう。その他のインパクトも逓減していくかもしれない。このため、新たな材料がなければ、最難関私立大学附属校を除き、また元の難易度に戻る可能性がある。
多くが注目すると割高になり、広く注目されなくなると割安になる。
自分自身で判断しているつもりが、実はただ周りの影響を受けているだけということもある。
オランダのチューリップ・バブルを連想させる現象が、大学附属校で起きていたのかもしれない。
大豪邸が買えるような資金で、球根一つを買って喜ぶような行動は、賢明とは言い難い。
常に冷静な志望校選択をお勧めする。