[2021年6月16日]
首都圏では、中学受験が過熱している。リーマンショックや東日本大震災で一時的に緩和した時期があったが、また過去最高水準に迫る勢いだ。
新型感染症の影響などもろともせず、過去最高を更新する気配となっている。
この傾向は、私立中学入試や国立大学附属中入試に限られたことではなく、都立中入試にも大きな影響を与えている。
都立中入試で倍率が低下傾向にあることを喜んでいる向きがあるるようだが、何度も申し上げているように、倍率が難易度の決定要因ではない。倍率が下がっても難易度が上昇することなど、当たり前に起きる。逆に、倍率が高くなったからといって、倍率が低い学校より難易度が高くなるとは限らない。
それはさておき、近年の中学入試の過熱は、なぜ起きているのか、検証しておくべきだろう。
一般的に言われているのは、次のようなことだ。
1.公立中学校の総合的な教育力に対する不信
2.公立中学校のICT化の遅れに対する懸念
3.公立中学校の国際教育の遅れに対する懸念
4.有名私立大学の入学定員厳格化への警戒
5.私立学校等の充実した教育指導への期待
6.私立学校の充実した教育設備等への期待
7.少子化などによる教育費負担能力の向上
など
過去にも指摘してきているが、高校受験を選択した場合の最大のデメリットは、これらではない。
A. 高校募集を行う難関私立高校が極端に少ないこと
近年、海城、本郷、豊島岡女子などが、高校募集を打切った。
男子難関高校では、開成、巣鴨、慶應(神奈川)、早稲田高等学院などしか残っていない。女子難関高校で高校募集を行っている高校はほぼない。共学難関高校では、青山学院、中央大学高校など、有名大学附属高校くらいしかない。
B. 中学入試は平易なのに、一部の不人気校を除き、ほとんどの私立校で、高校入試における難易度が大幅に上昇すること
中学入試では名前が書ければ合格できると揶揄されるような私立学校の多くでも、高校入試では強気の生徒募集ができている。
C. 難関都立高校が異常な激戦状態にあること
日比谷男子の倍率2倍、三田女子の倍率3倍などは、公立高校としては、異常な高倍率だ。戸山、新宿、青山なども高い。
高校受験では記念受験はありえないので、名目倍率は、そのまま、ほぼ実質倍率になる。
都立高校は、分割後期入試を行っているごく一部の高校を除き「一発勝負」だ。
倍率が3倍なら、定員の2倍の人数が、受験者の3分の2が不合格になる。倍率が1.5倍でも、定員の半分が、受験者の3分の1が、不合格になる。
地方の公立高校に通った保護者には理解できないような厳しさだ。
D. 都立高校も、私立高校も、内申で、合格できる高校がほぼ決まること
都立中入試での報告書点(内申点)が足らないと不利になるような程度とは違い、高校入試では報告書点不足は致命的になる。一部を除き、私立高校入試では、報告書点だけで合否が決まる。都立高校入試でも、報告書点は、推薦入試では50%、一般入試では30%を占める。小学校で通知表の成績が芳しくないと、地元公立中学の通知表も芳しくない傾向が極めて強い。通知表が芳しくない子は、高校入試では決定的に不利になる。
それは都立中入試の比ではない。小学校で「よくできる」が80%程度以上ない子は、抜本的な対策が成功しない限り、難関高校受験でも敗北する。
もちろん、通知表が良ければ楽勝という訳ではない。この点を勘違いしている親子も少なくない。都立高校入試では、本試験で合格ラインを超えられる得点力がないと、いくら通知表が良くても惨敗する。
教育熱心で適切な情報収集力のある保護者なら、都内の高校入試の異常性に早くから気がつくはずだ。
必然的に、本気の中学入試を選択することになる。
呑気な保護者は、地元公立中学でも、教育設備に大きな問題はなさそうだし、以前のように荒れてもいないようだし、給食があるのはありがたいし、交通費がかからないのはありがたいし、なにより授業料がかからないのがうれしい、などと安心し、高校受験の準備や対策が遅れるばかりか、高校受験の厳しさに気がつくことに致命的な遅れをとる。
中学受験が過熱する理由は、高校受験を選択することが、親にも子にも不利になると、多くの賢明な親は気がついているからである。
私立高校の授業料実質無料化も、この傾向に拍車をかけている。
授業料実質無償化を享受できる、家庭所得が「中の上」までなら、中学3年間の学費を負担できれば、理不尽な高校受験をする必要もなく、高校受験で人生を踏み外すリスクを負うこともなく、高校受験のない6年一貫の効率的な学校生活を送りながら、余裕を持って大学受験など将来に備えることができる。
中学3年間の学費だけと考えれば、国産自家用車の一括購入代金程度だから、極端な低所得家庭でもない限り、あるいは極端な子だくさん家庭でもない限り、工面できない金額ではない。
よって、一般家庭が、こぞって中学入試に参入しているのだ。
子に不利な人生を歩んでほしくない。
その親の気持ちが、中学受験を過熱させる。
その影響は、当然に、都立中入試にも及ぶ。
都立中は貧者の進学校ではない。
むしろ、私立高校授業料実質無償化が利用できない高額所得者にとって、最大のメリットを享受できる学校である。
つまり、都立中入試では、高額所得家庭の子弟にも競り勝たなければ、合格できないということだ。
また、高校受験を選択した場合、都立高校進学校だけでなく人気の私立大学附属校も超狭き門なので、早い時期からしっかりと準備を進めないと、合格の枠に入れないということだ。
最後につけ加えておく。
都立中を目指し、残念なら地元公立中学を目指すという選択も甘くはないことに気がつくべきだろう。特に23区内は厳しい。
初めから難関都立高校に合格できるという確信がもてる子ならよいが、そうでない子は、都立中入試でも、都立高校入試でも、もみくちゃにされるリスクが高い。
子に、人生の早い段階で敗走させるようなことを望む親は、いないであろう。