[2021年6月25日]
適性検査型入試を行う私立中学校に、気になる動きがでてきた。
延長された緊急事態宣言が終了し、私立中学校の生徒募集に関連した行事や動きが一気に加速している。
教室の郵便受けには、私立中学校からの塾向けの案内資料が次々に届くようになった。
届いた資料の中で、最も注意深く見る部分は、
募集要項である。
適性検査型入試を行う私立中学校で、特待合格を出し渋る動きがあることは、以前、この日記で書いた。
今年に入って気になるのは、適性検査型入試を取りやめる動きが出てきていることだ。
生徒募集に全く苦労しない私立中学校は多くない。
公立中高一貫校の受検生に併願してもらい、少しでも多くの受検生に入学してもらえればと、これまで適性検査型入試を追加する私立中学校の数が増加の一途にあったが、ここにきて「潮目」が大きく変わろうとしている。
都心にある、ある中堅上位の私立中学校が、来春の入試から適性検査型入試を取り止める。
代わりに、その日程で「算数と国語の2科入試」が実施されることになった。
多くの都立中受検生の併願候補校から、今後は外れることになるだろう。
それは、私立中学校の側も、承知の上での判断である。
昨年まで適性検査入試を行っていた、山手線沿線北地区のある中堅私立中学校は、ここ数年、適性検査入試における特待合格を出し渋るようになってきている。渋るというより全く出さなくなった。
近いうちに、適性検査型入試を取りやめるか、募集定員の大幅縮小に踏み切るのかもしれない。
別の中堅私立中学校の広報担当者は、適性検査型入試回を受験するのは、ほとんどが4教科や2教科も受験した受験生で、複数回受験でチャンスを広げることが目的のようだと、話してくれた。
そうだとすれば、適性検査型入試を行い続けるメリットは、私立中学校側にも、受験生側にも、ほとんどない。
代わって、私立中学校が積極的に展開し始めたのが、算数単科入試、英語入試、国語重視入試、プレゼンテーション型入試、アクティブ・ラーニング型入試、探求型入試などである。
このような入試の方が、適性検査型入試よりも、より多様な才能をもつ生徒を、数多く集められるということに、気がついてしまったのである。
私立中学校にとって、適性検査型入試を行う旨味が、かなり薄れてきているのだ。
これは、都立中受検生の併願戦略に大きな影響を与える可能性がある。
適性検査型の対策オンリーの受検生にとって、適性検査型入試を行わない難関私立中学校に併願合格することは、奇跡でも起こらない限りありえない。
難関私立中学校のほとんどは、もともと4教科型の学力試験しか行っていないので、適性検査型受検生には、かなりハードルが高い。
都立中が実質単願の受検生は、今後さらに、適切な併願戦略が組みにくくなるだろう。
そもそも、適性検査型入試を行う私立中学校で、都立中並みに優秀な生徒が集う学校は数少ない。
都立中並みか、都立中以上に優秀な生徒が集う私立中学校は、軒並みバリバリの学力試験型入試を突破できなければ、合格できない。
もともと、受検指導においては、適性検査型入試の私立中学校は練習校にとどめ、本気で難関私立中学校を併願するなら学力試験に突破できる力を併せて育成するという指導方針だったので、塾生の受検指導に根本的な影響はない。
もちろん、こうした動きに対応できる戦略は、すでに受験指導の中に組み込んである。
しかし、難関私立中学校の併願合格を目指して、塾生とおなじような戦略を取る受検生が増えることになれば、塾生への影響を軽視することはできない。
今後は、名門私立中学校への併願合格を狙うなら、適性検査型入試対策だけでは全く歯が立たない状況へ、また回帰していくと思われる。
適性検査型受験生であっても合格を目指せる魅力的な私立中学校が減っていき、適性検査型受験生に魅力的な入学条件を提示する私立中学校も減ってしまえば、都立中が実質単願の受検生は、都立中に不合格になった場合に、魅力的な進学先がない。
地元中学に進むしかなくなる。
高校受験に回るしかなくなる。
高校募集をしていない名門私立中学校にとって、そうした受験生は、もともと自校には縁のなかった受験生だったのだということを、強く認識し始めているのではないだろうか。
名門私立中学校にしてみれば、そうした受験生に、自校をアピールする価値はない。
こうした状況を大いに喜ぶのは、「実は自塾生の大量不合格」を飯の種にしている「悪徳学習塾」だけ、ということになるのかもしれない。