[2021年11月14日]
緊急事態宣言が明けて、都内のある難関中高一貫校のベテラン数学教師と意見交換する機会が持てた。
その学校も、中学数学を中2の秋に終えて、中2の秋から高校数学に入る。
数学教師だから承知しているのは主に数学指導に関してだと思っておいた方がよいかもしれないが、長年そして今も担任を受け持っておられるから、成績全般に関しては全教科を把握されていると考えてもいいだろう。しかも数学教師だからデータ解析は得意分野だ。
開口一番に強調されていたのは、「中高一貫の6年間で、成績の大逆転はまず起こらない」ということだ。
成績下位の生徒も伸びるが、その間に成績中位や上位の生徒も伸びるから、結果として成績順位に大きな変動は起こらないのだそうだ。
常々、女子は中学受験で先行逃げ切りしかないと言ってきたが、男子も中学入学後は先行逃げ切りしかないようだ。
模擬試験や学力テストや定期テストの成績推移のデータをもとに説明してくれたので説得力がある。模擬試験や学力テストの成績推移は全国の有名進学校の全校生徒のデータを含む。
もし、大逆転が起こり得るとしたら、中学数学を学び終えるまで、つまり中2の夏までというのが、一致した解釈だ。しかも、ごくわずかの生徒しか大逆転は起こせない。よって、中学に入学してしばらく経過したら、もう大逆転はないと考えておいた方がよい。
ここから導き出される戦略は次の通りだ。
・中高6年間で成功したいなら、中学数学は一気呵成に完璧に仕上げる必要がある。
厳しい中学入試を乗り越えたのだから、少しの間はゆっくりさせて上げようなどと考えると、かえって苦しい6年間になる。
中学受験で中学数学の一部を実質先取りしたのは、中高一貫校の進学校に合格し入学した生徒ならみなおなじなので、入学後のハイレベルな中学数学でも、しっかり上位の成績を修める必要があるのだ。
・中高6年間で成功したいなら、中2の夏までに、同学年の順位や同学年の偏差値で、目標大学に合格が見込める水準まで到達しておく必要がある。
・高校1年には大学受験における立ち位置が固定化するので、高2からが勝負だと思って頑張っても遅い。高2からは最後の逃げ切り期間と心得るのがよい。
中高一貫の高校課程に入った後は、もはや大逆転はほぼなくなる。成績はパラレル・スライドしかしない。もちろん、「共通テスト(旧センター)」を利用せずに、私立大学を一般入試や旧AO入試などで逆転合格することはできなくはない。しかしそれは、成績による大逆転ではなく、戦略による大逆転であり、誰でもできる訳ではなく、概ねMARCHレベル以下の大学に限られる。中堅以上の国公立大学や最難関私立大学ではほぼ起こらない。医学部医学科などの難関学部では、どの大学でも起こらないと考えた方がよいだろう。
中高一貫校に入学後の、約1年半しか、大逆転できるチャンス期間は残されていない。しかも、多くが大逆転に挑戦するが、多くは大逆転を達成できない。
中学受験で偏差値の高い学校や評判の高い学校への合格を目指すのはよい。しかし、入学後の1年半で学外のライバルのことも考慮に入れながら着実に地固めをしていけるような、小学校段階での取り組みが必要なのである。
中学受験で、ただ志望校に合格さえすれば、将来が保証される訳ではない。
闘いは、入学後の6年間も続く。
むしろ、入学後の6年間で、勝負が決まる。
もっと言えば、入学後の1年半で、勝負がほぼ決まる。
さらに言えば、中高一貫校入学前の取組の中身次第で、勝負の大筋が決まる。
しかも、高い偏差値の学校に入学すれば、それで大丈夫なわけではない。開成の1学年400人のすべてや、小石川の1学年160人のすべてが、東大や医学部医学科に合格できる訳ではない。一方で、二番手や三番手の学校からも、東大や医学部医学科の合格者は出る。
合格だけを目標にしていては、いけないのだ。
合格と、合格後の成功を、ともに目標にすべきなのだ。
将来に難関大学や難関学部への進学を目指すなら、合格後も成功に向けて邁進できる学校を、真の志望校とするのがよいだろう。