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三田学院

[2021年12月20日]

【都立中】二月の「敗者」はどこへ消えたのか

人気漫画をテレビドラマ化した「ニ月の勝者」の放映が終了した。どんな最終回となるのか注目していた人も多いことだろう。しかし、期待通りの結末にはならなかったと感じた人や、肩透かしをくらったと感じた人も、多かったのでないだろうか。

・「第一志望校に全員合格させます!」のウソ

少なくとも双子の男子の一人は第一志望校に不合格になったと描かれている。「全員合格させます」という約束は、巷の悪徳塾と同じように、いつのまにか反故にされてしまったようだ。巷の悪徳塾はもっと巧妙に、「合格率50%を目指します」と言っておいて、電話作戦などで無理やり集めた「合格率30%程度」で、ごまかしてしまう作戦を、毎年のように展開している。

・「難関私立中の合格を辞退して、都立中に進学する!」

どのような対策をして合格できたのかが、まったく描かれていない。学力試験型の対策だけしておけば、他に特に何もしなくても合格できるかのような、誤った情報提供になってはいないだろうか。

そもそも、私立御三家に合格できたら、その全員が難関都立中に合格できるほど難関都立中への合格は甘くない。もし御三家合格者であれば誰でも都立中に合格できるのなら、都立中の少ない定員は、そうした人たちで、たちどころに埋まってしまうはずだ。実際には、そうはなっていない。

経済的な要因が理由なら、合格をいただいた第一志望の御三家私立中への進学を諦めずに、当該私立中の奨学生制度を利用した方が、現実的な選択肢ではないだろうか。都立中を貧者のための進学校として描いているところも現実と乖離している。都立中の生徒や保護者を見下してはいないだろうか。

・「無料塾は何を解決したのか?」

歓楽街のビルの地下にある無料塾は、いったい何のために描かれていたのだろうか。格差社会を鮮明に映し出そうとしたのなら、何も新しい問題提起にはなっていない。主人公の塾講師が、なぜ無料塾を運営し、それが何を解決し、そこから何を学んだかが、描かれていない。

・「元公立中学校教員は塾講師をして何を学んだのか?」

元公立中学校教員で生徒指導で挫折を体験し、学校教員を辞めて塾講師になった若手は、たった1年の塾講師経験を経て、また公立中学校教員に戻ったことが描かれている。中学受験指導を通していったい何を学んだのかがハッキリと描かれていない。また、なぜ公立中学校教員に戻ろうと決意したのかもわからない。ただ一人の社会人として立ち直ったことだけを描きたいなら、このストーリーの中に入れ込む必要はなかったのではないだろうか。

・「表舞台ではけっして本性を見せない大手塾の経営者」

最終回に塾経営者は登場しなかった。いつもニコニコしていたのは、ネギを背負ったカモを「カケ子」に集めさせ、ネギを背負ったカモから「ウケ子」に集金させ、己は手を全く汚さなくても儲けられているからだろうか。どこかの学校に合格した子だけを集めて、食事や飲み物を振る舞い、「カケ子」や「ウケ子」に『よく頑張ったね』と言わせておけば、すべての罪は清められるとでも思っているのだろうか。

いずれにせよ、「二月の敗者」が巧妙に消されているところが、大手塾への取材をもとにして描かれたストーリーであろうことを、鮮明にしている。

「二月の敗者」を描かずして、中学受験を描き切れるはずはない。

中学受験では、少なくとも70%が、第一志望校に合格できない。

「二月の敗者」は、どこへ、消えたのだろうか。
「二月の敗者」は、どう、消されたのだろうか。