[2022年3月15日]
また門外漢の独り言を書いておく。
どちらの陣営の動きにも、どちら側の報道にも、腑に堕ちないことが多いからだ。
ロシアがウクライナに侵攻しても、アメリカは軍事介入しないと事前に公表したことは、アメリカの失策だったとする評価があるが、これはそもそものアメリカの政治的戦略であって、むしろ現時点では大成功していると評価すべきであろう。
アメリカは、NATO加盟国が軍備の拡充に消極的なことに業を煮やしていた。アメリカに安全保障を頼りきった姿勢に我慢できなかったはずだ。その伏線はアフガニスタンからの撤退に見て取れる。アメリカばかりが負担を強いられる状況に、有権者であるアメリカ国民もうんざりしていた節がある。
その証拠に、NATO最大構成国の一つのドイツが、急遽、長期的で大幅な軍備増強に方針転換した。アメリカの希望通りの展開だ。
加えて、スウェーデンとフィンランドで、NATO加盟の機運が強まっている。ロシアのウクライナ侵攻で民心はパニック状態だという報道もある。早く加盟しないと次は自分たちが狙われると感じているそうだ。アメリカは新しい子分を2つも手に入れられる。
ナポレオンもヒトラーも打ち破ったロシアに対する、アメリカの鉄壁の守りが完成する。
実は、日本や台湾や韓国も、近年アメリカからの武器購入額を大幅に増やしている。これはロシアではなく中国を念頭においたものだ。ここでもアメリカは政治的に成功している。中国を刺激すればするほど、日本や台湾や韓国に武器を輸出できる。
次のウクライナは台湾かもしれない。その時、ロシアの代わりが中国であろうことは想像に難くない。
話しはウクライナに戻すが、20万の地上兵力で、人口約4500万人の国全体を制圧することはできないはずだ。よって、ロシアは当初からウクライナ全土の軍事的な占領など目論んでいなかったはずだ。脅かすだけで政権転覆を図ろうとしていたと思われる。
その証拠に、最精鋭で30万人から40万人の兵力規模を誇ると見られている大統領直轄のロシア国家親衛隊は投入されていないし、世界最高水準を誇る最新鋭のミグやスホイといった戦闘機や戦闘爆撃機も大多数を温存したままだ。ロシア陸軍のお家芸であるロケット砲軍団も、まだ本格的には投入されていない。
侵攻から3週間たっても、ウクライナはロシアに屈していない。ここにもアメリカの周到な関与がある。2014年のロシアによるクリミア半島占領後、アメリカはウクライナ軍に、アメリカ製の兵器を使用方法を指導し、かつアメリカ製兵器を大量に供与をしてきていた。ウクライナ軍の善戦は、士気の高さもあろうが、このアメリカ製兵器の存在が大きいと思う。トルコもちゃっかり便乗して、ドローン兵器をウクライナに輸出してきた。なかなかしたたかである。
意図せず、泥沼に足を取られたロシアは、ウクライナでの軍事的な優勢はしばらく維持できても、強烈な経済制裁で経済的には大敗北を認めざるを得なくなる。まず、ロシア国債の利払いや償還ができなくなる。これは国際金融的には財政破綻を意味する。近代国家にとって財政破綻は国家の破綻に等しい。一旦破たんすれば、立ち直るのは容易ではない。
アメリカは、宿敵ロシアを、戦わずしてノックアウトすることを目論んでいるのではないだろうか。
なぜ、このタイミングかと思われるかもしれない。
理由は、中国(人民解放軍)の軍事的な台頭が、許容できるレベルを超えてしまったことにある。
ロシアと中国を相手に、同時に2正面で闘うことは、アメリカにとっても厳しい。というより勝算が見込めなくなった。
どちらか一つずつ潰していくしかない。
ウクライナに侵攻させてロシアを潰し、台湾に侵攻させて中国を潰す。これが、今のアメリカの覇権を懸けた戦略なのではないだろうか。
いずれも、アメリカは、直接には軍事的には関与しない。損失を最小限に抑えることができるからだ。
怖ろしいのは、台湾が尖閣諸島に置き換えられることだ。台湾が親中国になってしまえば、アメリカは台湾を生贄にできなくなる。
日本海海戦でロシアのバルチック艦隊を打ち破り、日露戦争に勝利した実績のある日本は、アメリカにとって利用価値が高い。今のロシアは経済力的には韓国以下だから、核兵器を除く通常兵器での闘いなら、日本を本気にさせれば、日本を生贄にするだけで、少なくともシベリアや沿海州や樺太や千島列島に展開するロシア東部方面軍を打ち破れると考えているだろう。
しかし、中国が相手となれば、日本だけでは心細い。日中戦争で泥沼にはまった日本軍の失策は十二分に研究済みだろう。
韓国はあてにならない。つねに中国やロシアに媚びを売ってきた、とてつもなく長い歴史があるからだ。韓国のアイデンティティと言っても間違いではないだろう。今も韓国は経済的に中国に依存度が高く中国との貿易や投資が止まれば国家が破綻する。北朝鮮の核開発や超距離ミサイル開発はロシアが支援している。よって、対中国や対ロシア政策では、アメリカは韓国を完全には信用できないし、利用するにはリスクが高いと感じているであろう。
台湾と日本に同時に生贄になってもらうことが、対中国政策における、アメリカのメインシナリオとなるだろう。
ロシアのウクライナ侵攻で利するのは誰か?
もう、おわかりだろう。
歴史と地理を学んだことが、こんな形で役に立つとは思いたくなかったが、ロシアのウクライナ侵攻は歴史の学び直しには良い機会かもしれない。
日本が置かれた地政学的な立場がいかに危ういかを理解できるであろう。
何も考えないでいると、自ら進んで生贄になることを、選ぶことになりかねない。
新しく導入される、高校の「歴史総合」という科目では、日本史と世界史を融合し、近現代を中心とした歴史を詳しく学ぶ。
多くの日本人が、歴史をわが身のこととして認識できなくなってしまったことへの、文部科学省の強い反省の現れだろうか。