[2022年5月7日]
適性検査型入試を行う私立中が多くなり、公立中高一貫校を目指す受検生が併願することも多くなった。
以前は、ただ練習のためだけに受験するケースが多かったが、最近は公立中高一貫校が残念になった場合の進学先として選ばれることも少なくない。
適性検査型入試を行う私立中であっても、魅力的な教育を提供する学校は少なくはない。しかし気をつけておくべきことは多い。
特に、次のような学校は要注意だ。
1.適性検査型入試を行いながらも、入学者のほとんどが学力試験型入試経由の私立中
2.適性検査型入試を行いながらも、学力試験型だけだった頃と指導が変わらない私立中
3.適性検査型入試を行いながらも、入学後は詰込教育やスパルタ教育が中心の私立中
4.適性検査型入試を行ってるのは、定員割れ防止か受験料集金のためでしかない私立中
適性検査型入試を行っているのだから、入学後の教育方針や教育内容が公立中高一貫校型だと安易に思い込んでしまうと危険である。
まず第一に、多くの私立中が適性検査型入試を行う主な理由は、集客と集金のためである。公立中高一貫のような教育指導を行っている私立中は数少ない。つまり志望校選択として適切とは言えないケースがほとんどである。
また、学力試験型入試による入学者が多いと、入学時点の理科と社会の学力に大きな差がある状態からのスタートとなることを覚悟しなければならない。学力試験型入試では、概ね中学の理科と社会の学習内容の「3分の2(約66%)」以上を履修した状態での入学となるから、学校側もそれに合わせて授業を進めることになる。このため、適性検査型入試による入学者が、入学後にキャッチ・アップするのは容易ではなく、厳しい状況に追い込まれかねない。このギャップは、算数・数学や国語でも起こる。
これらは、帰国生入試や英語入試においても起こることなので、適性検査型入試だけの問題ではない。
帰国生入試を行いながら、英語入試を行いながら、4教科型入試での入学者が圧倒的に多いために「混合でクラス編成」が行われると、帰国生入試や英語入試での入学者は、英語の授業は問題なくても、その他の教科では圧倒的に学力が不足するというケースが頻発する。英語の授業だけ「取り出し授業」を行っても、「国際学級」を設置しても、学校全体としては帰国生入試や英語入試の合格者は少数派でしかないから、根本的には同じことが起こる。
英語以外の学力差を埋めきれず、孤立した6年間を過ごし、結局のところ英語力だけで勝負するような大学受験に突入せざるを得なくなる。評判の良い学校に入学できたのは良いが、実質的に教育内容とミスマッチのまま満足度の低い6年間となりかねない。
それを承知で、多くの私立中が適性検査型入試を行うのはなぜか。
ほとんどの場合が、集客と集金のためである。
そのような私立中を、どれだけ信用できるであろうか。
誤解のないように申し添えるが、適性検査型入試での入学者に十分に配慮した教育を行っている私立中も、数は少ないが存在している。すべての適性検査型入試を行う私立中が、都立中の併願先として不適切な訳ではない。
さらに誤解のないように付け加えるが、併願受験生の側の対策により、こうした問題を軽減することは不可能ではないことだ。ただし、学力試験型入試専門大手は学力試験型入試指導で手いっぱいだし、適性検査型入試専門大手は適性検査型入試指導で手いっぱいだから、そうした大手に頼っても、問題解決は難しいだろう。
学力試験型入試専門大手から都立中を目指すというのもリスクが大きい。
まず第一に、同じ学力で比較すれば、都立中の合格可能性が高くならないことだ。むしろ不利になる。加えて、都立中を目指すには教科学習が過度になり過ぎる。そのために教科の基礎基本がおろそかになる危険性がある。都立中への合格を目指すなら、最難関や難関向けの私立中向けの対策をするよりも、教科の基礎基本を徹底する方が有効である。最難関校や難関校の対策よりも、上位校向けの対策の方がフィットする。しかし、大手学力試験型入試専門塾の指導内容は、所属クラスが高くなくても、最難関校や難関校の指導内容と根本的には同じになる。都立中の合格に必要ない学習内容が多くなりすぎる。非効率なばかりでなく、都立中不合格のリスクを不必要に増大させることになる。
都立中に進学しようが、私立中に進学しようが、進学校であれば、大学受験を視野に入れた教科指導になるから、6年間の教育内容に根本的な違いはないので、合格のためというよりも、入学後のために必要な学力を見極めて、養っておくことが大切になる。そうした学力とは、最難関私立中や難関私立中の合格に必要な学力とは一致しない。
最難関私立中や難関私立中の入試問題のような難問が解けるようになろうと取り組むことが、学力を向上させるのではない。その辺りを勘違いしてはいけない。難問を解く力は、中学入学後だけでなく、その後の大学受験でも、ほとんどが必要とされなくなる。
さて、少しでも有利な試験タイプで合格を狙いたい気持ちは理解できる。
しかし、適性検査型入試や英語入試の他にも、算数単科入試や、算数と国語の2科目入試も、注意が必要である。
入学後の6年間を考慮すれば、例えば算数入試で合格を狙う場合でも、算数ばかり対策して合格を目指したのでは危険すぎる。算数入試による合格者は、一部は学内上位に食い込むが、残りの多くが学内下位に低迷することが多い。なぜなら、入学後の成績は、算数・数学だけでは決まらないからである。算数入試で合格を狙う場合でも、4科でも合格が狙えそうな水準まで、可能な限りその他の教科もしっかり対策しておいた方が安全である。
よって、都立中に進学しても、私立中に進学しても、入学後に学内上位を目指せるような総合的な素地を、入学前にしっかりと育成して固めておけば、これまでに指摘したような問題にも、ほぼ対応できる。
1年前に都立中に合格した塾生や、2年前に都立中に合格した塾生から、都立中に入学した後の学内成績が良好だという報告を受けている。学内成績順位は毎回上位で、通知表の評定は「ほぼオール5」である。
勝因は何かと聞けば、
適性検査型入試指導大手からの入学者は理科社会だけでなく教科全般の学力が相対的に高くないから、また、学力試験型入試指導塾大手からの入学者は解法暗記やパターン暗記の詰め込みばかりで元々の素の能力はさほど高くないから、ということのようだ。おおいに納得できる回答である。
4科型入試の合格者であっても安心してはならない。
4科入試で私立中高一貫校の進学校に入学した塾生が、入学後の学内成績で1位を連発し続けている。GTZは、総合で「S2」を、教科によっては「S1」を達成している。
ここでの勝因は何か、お分かりだろうか。
塾生に聞けば、この私立中は大手私立中受験指導塾からの合格者がほぼ100%とのことだが、彼らの共通した欠点は、塾で強制されないと勉強できないことらしい。合格後に大手塾から解放されると、多くは自立して自分一人では勉強できず、早々に貯金を切り崩すことになり、低迷していくそうだ。だから大手私立中受験塾の出身者など、まったく怖くないらしい。こちらも通知表の評定は「ほぼオール5」である。入学して1年も経たないうちに、学校では「ゴッド(神)」とニックネームで呼ばれるようになったそうだ。
合格することだけで精一杯になってしまうのは理解できる。
しかし、中学入試はゴールではない。
入学後も活躍できるように、適切な合格対策と、適切な志望校選択を、ともに、しっかりとすべきなのである。