[2022年6月28日]
県立高校王国の愛知県が、ついに公立中高一貫校の設置に動き出した。
まだ検討に入っただけの段階だったので、コメントすることを差し控えていたが、後出しジャンケンにならないように、この段階で書いておこうと思う。
第一次導入候補校は次の4校である。
一宮(いちのみや)
半田(はんだ)
津島
刈谷(かりや)
愛知県の公立高校は、尾張地区の名古屋市内にある旭丘高校(旧制一中)と、西三河地区の岡崎市にある岡崎高校(旧制二中)がツー・トップを務めている。
まあ、気位の高い名古屋人は旭丘こそ愛知のトップ校だと思っている節があるし、一方で岡崎は開成や灘やラ・サールを意識していて旭丘や私立東海をライバル視していない。
そもそも、旭丘も岡崎も、東大合格者数では都立日比谷を上回ることがある公立の実力校であり、東大+京大では日比谷を上回ることも多い。京大単独では大阪の北野などとも競い合っている。
これに続くのが、東三河地区の豊橋市にある時習館(じしゅうかん)、尾張地区北部の名古屋市外にある一宮、西三河地区で地理的に岡崎よりも名古屋に近い刈谷であるが、このうち一宮と刈谷が中高一貫化する。
半田は知多半島地区の進学校、津島は尾張地区西部の進学校である。一宮、刈谷ともに、旧帝国大学の名古屋大学への合格者数は100名前後になる。半田がこれに続く。津島も名古屋大の他に、東京一工などへの合格者が出る。
つまり、一宮も刈谷も、他の都道府県であれば、都道府県内のトップ校に相当するような公立高校なのである。都立小石川に肉薄するような難関の公立中高一貫校になっても不思議ではないような名門校である。
よって、今回中高一貫化する4校、特に一宮と刈谷は、高い難関大学進学実績と、人口密集地にあることを背景に、公立中高一貫化が実現すれば、相当な激戦校となることが予想される。
また、旭丘や岡崎を目指していた優秀な高校受験生が、一部流れる可能性もある。
そもそも愛知県、教育熱心でありながら、私立中学の充実度が、首都圏に比べると格段に見劣りしていた。
今でこそ全国トップクラスとなった私立東海中高だが、進学実績で、長らく旭丘や岡崎の後塵を拝していた。私立滝中高に至っては、長らく公立進学校の滑り止め校であった。しかし、全国的な中学受験熱の高まりから、今はどちらも全国レベルの難易度になっている。
この他がやや淋しい。
女子なら、南山大学附属の女子部や、愛知淑徳、椙山(すぎやま)、金城(きんじょう)の名古屋の女子御三家があるが、いずれも東京や神奈川の女子御三家レベルには届かない。これに続くのが名古屋女子であろう。
このため、優秀な中学受験生の収まりどころが足らない状態になっていた。つまり高校受験に廻るしかない受験生が溢れていた。
ここに、一宮や刈谷などが中高一貫化すれば、一気に中学受験熱が再加熱する可能性がある。
しかも、公立高校の中高一貫化は、この4校で終わるとは限らない。早くも名古屋市内では、明和(めいわ)の中高一貫化を望む声が上がっている。明和はかつて尾張藩の藩校だったこともあり、熱烈な支持者がいる。これに名古屋市内では向陽(こうよう)や瑞陵(ずいりょう)や菊里(きくざと)といった進学校が追随する可能性がある。豊橋の時習館も続くかもしれない。
半田が中高一貫化するなら、千種(ちぐさ)や岡崎北や豊田西も名乗りを上げたいところだろう。
*名古屋市千種区は「ちくさ」だが、千種高校は「ちぐさ」と読む。千種区ではなく名東区にある。かつての学校群時代、旭丘と名古屋第2群を組み、おなじく岡崎学校群の岡崎と岡崎北とともに、この4校(旭丘、千種、岡崎、岡崎北)が愛知県公立高校のトップ4を形成していた時代がある。東京などとは違い、学校群制に移行しても名門校の入学難易度はさほど下がらなかった。むしろ、難関大学への合格者数を飛躍的に伸ばすなど、学校群制設置目標とは逆の方向になったことが、公立高校王国愛知の独特の現象でもあった。
*岡崎高校にも逸話がある。岡崎市内には名門進学校の岡崎北もあり、かつて岡崎北は岡崎市立岡崎高校だった頃があるため、混同を避けるために、岡崎高校は県立岡崎高校を略して「県高(けんこう」と呼ばれた。今でも、岡崎高校のOBやOGは、高校はどちらですかと聞かれたら「けんこう」と答える人が多い。
*岡崎高校(けんこう)はNHK合唱コンクールの全国大会出場常連校でもある。その意味では豊島岡女子がライバル校である。女子校の女声合唱に対し共学なので混声合唱となる。
愛知県の公立高校の中高一貫化は、本年度中に結論が出る予定で、設置されるなら2025年度となる予定である。
偉大なる田舎と言われ続けた愛知県だが、首都圏や関西圏のような、中学受験の激戦地となるのであろうか。
また、愛知が動けば、岐阜や三重も追随して動く可能性があり、中京圏が一気に過熱する可能性もありそうだ。