[2022年6月30日]
都立中を目指すなら、公立中高一貫校の強さの源泉とは何かを確認しておくべきであろう。
適性検査対策をして入学することが、公立中高一貫校の強さにつながっていると唱える人がいるが、証拠が十分ではない。
むしろ反証の方が多い。
最大の反証は、私立中高一貫校の強さである。適性検査とは相いれない入試を行っているが、大学進学実績は良好であるし、評判の良好な学校も多い。
次の反証は、大阪や愛知など地方の大都市圏などにおける公立高校の強さである。東大合格者数など難関く公立大学や、最難関私立大学の合格者数で、3年制の公立高校の健在ぶりが目立つ。公立高校は適性検査入試ではなく、学力試験を行っている。
では、公立中高一貫校の強さの源泉はどこにあるのだろうか。
仮説としては、6年一貫体制が考えられる。
最難関私立中高一貫校の灘を例にすると、中学3年分の範囲を中1で学習し、高校3年分を3年間で学習し、残った2年、つまり高2と高3を大学受験対策にあてる。
灘は極端な例としても、難関私立男子校の多くは、中学3年間を1年半もしくは2年の2学期で終え、2年の後半もしくは2年の3学期から高校課程に入る。そして高2の半ばまでには高3までの範囲を終えて、残り1年以上を大学受験対策にあてる。
これが最大の中高一貫校の強みだと考えられる。
高い難関大学合格率、高い現役合格率は、こうして達成される。
受験で成功するかどうかは、極論すれば、合格に間に合うか間に合わないか、である。
その意味で、6年一貫体制は、この「間に合う」受験指導に最適なのである。
もちろん、3年制高校を選択しても、浪人を視野に入れれば、つまり7年体制を引けば、6年一貫体制に引けを取らない結果を残すことは可能であろう。
しかし、失われる1年は大きい。
大卒の大手企業の新入社員としての年収が少なくとも失われる。これに1年間の予備校代が費用として加算される。概ね600万円くらいの損失になるだろう。
この600万円、私立中高一貫校に通わせた場合の、6年間の総教育費に相当する。
経済学で言うところの「裁定」が働いているとも考えられる。この世の中、ウマい話しなどない。
もし、失われた1年を、定年直前の上級管理職としての年収と考えれば、予備校代と合わせて、1,500万円から2,000万円が失われることになる。
ここまで考慮すれば、見かけ上の教育費が高いからと敬遠した6年一貫教育の方が、トータルの収支ではお得になる。
話しを戻すが、灘方式の強さは、東大合格者数で圧倒的な実績を誇る、ある予備校が実証している。この予備校は原則として中高一貫生しか入塾できない。中学3年分の英語と数学を中1で終えて、中2から高校内容に入る。中3では数学2Bまでと、高校英語の全てを終える。
このカリキュラムというかプログラムは、天才ではない優等生を、確実に東大などの難関国立大学や医学部医学科に合格させることに適している。つまり、数少ない天才ではなく、多くの秀才を東大に送り込むことに適している。
ただし、このプリグラムは、多くの秀才にとっても、楽勝ではない。
最難関国公立大学や国公立大学医学部医学科への合格を前提にした高度な内容のため、御三家に通う生徒であっても、少なからずメンタルをやられてしまう。
もちろん、この予備校に通わなくても、最難関国立大学や国公立大学医学部医学科への合格を前提にした受験勉強に取り組めば、相当な秀才であったとしても、多くはメンタルをやられてしまうであろう。
この精神的な破綻を回避するためには、1ランクか2ランクほど目標校を下げるか、多浪を含む浪人を覚悟して、ムリのない範囲までハードルを下げることになろう。
公立中高一貫校に話しを戻す。
難関私立中高一貫校ほど学習進度は早くはないが、少なくとも高校受験がある3年制高校のデメリットを解消している。過度にハイレベルな目標を追わなければ、効率的な6年間を過ごすことができるというメリットがある。
都立中高一貫校が、難関国公立大学への高い現役合格率を誇ることは周知のことであろうが、これは6年一貫教育のアドバンテージを最大限に活かした結果だと考えられる。
高入生の募集を止め、完全中高一貫校化する都立中だが、その成果は今後さらに発揮されることになるだろう。
適性検査で入学者が決まる都立中など公立中高一貫校は、純粋な学力だけで合格者と不合格者を輪切りにしないので、私立中高一貫校に比べて、入学後の学力分布がやや広い。このため、学年順位が多少振るわなくても、それなりに充実した楽しい6年間を過ごせる可能性はある。
しかし、6年一貫教育の最大のメリットを享受したいなら、6年間で高度な学力を身につけられる素地を、小6までにしっかり養った上で入学した方が、満足度が格段に高くなるであろう。
先日、読者のみなさんも良く知っているであろう、公立中高一貫受検対策のサイトを運営され、適性検査対策に関する書籍も出版されている方と、席を隣り合う機会があった。
開口一番に切り出されたのは、都立中における不登校生徒の多さであった。
かつてスタッフ日記で、6年間で消える都立中生の多さを、都立高校と比較してご紹介したが、新型感染症の影響なのか、近年その数がさらに増えているようだ。
ある都立中ではクラス40人のうち9人が不登校になっている。
これが全て、6年一貫プログラムの過酷さからきたものかどうかは確認していない。そもそも、他塾から都立中に合格した受検生が、その後どうなったかまで、詳細に追跡するつもりなどない。
ただ言えることは、学費が安いからとか、教育環境が良いからとか、大学進学実績が良いからとか、その程度の上辺だけで、都立中受検を決断すべきではないということだ。
強さと弱さは、表裏一体であることも、知っておくべきだろう。
大手塾なみに低い合格率でありながら、公立中高一貫専門を謳う中小塾があるようだが、私からすれば、ただの「ミニ大手塾」にしか見えない。
学力試験ではなく適性検査なのだから伸び伸びと受検対策に取り組みましょうなどと謳う塾もあるようだが、伸び伸びやっているだけで合格できるなら誰も苦労はしない。公立中高一貫校の入試を誤解しているのか、それとも公立中高一貫校の本質を理解できていないのか、無責任な発言に聞こえてしまう。
こうした塾は、どうあがいても受からない受検生を数多く入塾させて、利益を得たいと企んでいるのかもしれない。気をつけた方がよいだろう。
合格だけが目的化していしまうと、あるいは受検することが目的化してしまうと、大切なことを見失ってしまう。
成長段階の子が、その過程で何を手に入れられるのかを、その過程をいかに充実させられるのかを、しっかりと見極めて、取り組むべきであろう。