[2022年9月4日]
都立中の受検対策は何年生から本気で始めるべきか。
巷にはいろいろな意見があるようだ。
都立中について考えてみる前に、私立中受験について確認しておこう。
かつては、今から20年以上前は、中学受験は小5の初めから本格的に始めるという時代があった。
しかし今は、新小4、正確には小3の冬から本格的に始めるのが常識となっている。
なぜか。
かつては、小5と小6で中学受験の全範囲学び、総仕上げまで行っていた。
それが、徐々に、小4と小5で中学受験の全範囲を学び、小6では総仕上げと受験校対策に取り組むというスケジュールに移行している。
広く知られている中学受験の教材も、数年前に大改訂を行い、この実態に合わせるカリキュラムになった。
この場合、小5から開始したのでは、追いつくことが難しくなる。
おなじ能力というか器の受験生であれば、明らかに新小4開始の方にアドバンテージが生じることは理解できよう。
では、都立中などの難関公立中高一貫校はどうか。
事情は私立中学受験対策と大差はない。
小4と小5で小6までの小学校学習範囲をすべて終えて、小6では教科学習の総仕上げと、適性検査特有の出題傾向に合わせた対策と、志望校対策を行わなければならない。
小6で、小6の学習範囲を学習していたのでは、総仕上げと志望校対策が間に合わなくなる。
特に、適性小論文対策が間に合わない。
違いはある。
私立中学受験の学習範囲というか出題範囲は、学習指導要領の中学範囲まで深く入り込む。
これに対し、公立中高一貫受検の出題範囲は、建前上は学習指導要領の小学校範囲に限られる。
よって、私立中学受験の出題範囲をすべて対策することまでは、かならずしも必要ない。
しかし、私立中学受験では出題されないような問題が出題されるので、その対策をしなければならない。
合わせて、適性作文対策に十分な時間を割かなければ、公立中高一貫校受検では大きなハンディとなる。
しかも、教科学習では記述対策が早期から必要になる。
かつて、ある都立中で「分数のわり算で、割る数の逆数をかけるのはなぜか」という出題があった。説明できなければならないので、ただ分数の計算が正確にできればよい私立中学の受験対策とは趣だけでなく中身が違ってくる。
本質が理解できていなければならない。解法暗記には頼れない。
加えて、公立中高一貫受検の出題範囲は、建前上は学習指導要領の小学校範囲に限られることになっているが、これも真に受けてはいけない。
ある都立中では二項定理が出題された。他の都立中では指数関数が出題された。全国の多くの公立中高一貫校では数列は頻出問題である。いずれも、学習指導要領上では高校数学の範囲で、小学校では学ばない。ただし、算数で解けなくはないように工夫はされる。しかし、それを見抜けるのは、適切な対策をしてきた、ごく一部の受検生でしかない。
このように、私立中学受験は私立中学受験対策上の事情から、都立中は都立中受検対策上の事情から、小4早期までの開始が必要になってくる。
私立中受験において、保護者の時代の私立中受験の常識はもはや通用しないが、都立中受検においても保護者の常識は通用しない。
地方の公立高校受験しかしていない保護者には、中学受験や中学受検の経験も実績もないから、常識そのものを持ち合わせていない可能性さえある。
もちろん、受験は、早く始めれば成功し、遅く始めれば失敗するという、単純なものではない。それは大学受験や高校受験だけでなく、中学受験にも言える。
ただし、早く始めても失敗するのには、遅く始めても成功するのには、それなりに何か別の理由があるはずで、誰にでも当てはまるものではない。
多くの受験生や受検生とその保護者にとって安全なのは、ライバルにスタート時点から遅れを取らないことである。
マラソンでもよい、短距離走でもよい、ほぼおなじ実力の走者が競争する場合、明らかに遅れてスタートした走者が勝てる見込みは薄い。勝てるとしたら、先にスタートした走者が転倒した時くらいであろう。
かけ算を学習しない小1や小2から本格的にスタートする必要はないが、小3や小4で本格的にスタートできる下地や素地と心構えは、小2や小3までに、しっかりと準備しておいた方がよい。
スタートの合図が鳴っているのに、本気で走り出さなければ、勝負にはならないからである。