[2022年9月21日]
中学受験が格差を増幅させている実態が、幅広い層に正確に認識されているようには思えない。
全国的な公立中高一貫校の興隆で、格差が日本全体に広がりつつある。
6年制中高一貫校と3年制高校の根本的な違いは、中学段階で、高校内容まで学ぶかどうかにある。
ある都立中では、中3で高校数学1Aをほぼ学び終える。高1で数学2Bをほぼ学び終える。
つまり、高1で、国公立大学の一次試験範囲の数学を学び終えるということだ。
これだけで、3年制高校より約1年早い進度となる。
国公立文系や難関私立大学文系を目指す大学受験生としては、数学に関しては約2年を残して、大学受験対策の総仕上げができることになる。
数学3は高校2年の夏ごろには学び終えるから、国公立理系や難関私立大学理系を目指す大学受験生であっても、約1年半の総仕上げ期間が残ることになる。
この違いが浪人比率の根本的な差になり、また1ランク上の難易度の大学に挑戦できる余地を生む。
難関都立中の東京大学合格者の現役比率は100%に近い。これは全国の公立高校トップ校とは大きな差となっている。
ある難関私立男子校はもっと早い。中3で数学2Bまで学び終える。正確には中2の正月前までに数学2Bまで学び終える。
つまり中学卒業時点で大学入試に挑戦できるということだ。高校の3年間を、ほぼ全て総仕上げや志望大学対策に充てられる。
逆を言えば、3年制高校から難関大学を目指すとなれば、それはそれは忙しい高校生活を送ることになる。行事や部活に没頭すれば、浪人はもちろん、実力以下の大学へ進まなければならなくなるリスクが大きくなる。
中学時代に、目標高校への合格を目指して3年間を過ごさなければならない機会損失も大きい。高校受験があるから、入試範囲の中学内容をいつまでも学ばなければならない。優秀な受験生ほどムダが多くなり非効率になる。
近年、都立高校の二極化が激しい。格差がどんどん広がっている。
偏差値65以上の都立高校は、まだなんとか持ちこたえている。
持ちこたえていると言っても、偏差値65程度の都立高校は、難関国立大学への合格が年々厳しくなっている。
いつか、この偏差値65程度の都立高校も没落組に入ってしまうかもしれない。
私立完全中高一貫校の上位校以上や都立中高一貫校のような、難関国立大学や最難関私立大学への合格者数が激減する日が訪れるかもしれない。
近年、意識しているか意識していないかは分からないが、高校受験偏差値55程度未満の没落が激しい。
一般選抜でMARCHへ合格できなくなってきている。公表される進学実績におけるMARCH合格者が、ほぼ指定校推薦だけということさえある。
そもそも、一般受験で大学進学する気力さえ失いかけているように見える。
多くは指定校推薦で合格をもらえるなら、そこで手を打つという傾向が強まっている。
どの大学からの指定校推薦にも手が届かない受験生は、全入の総合型で入学先を決めるしかなくなっている。当然に社会の評価は厳しい。
高校卒業時点で、自ら学歴フィルターではじかれる道を選んでしまうしかないのが実態のようだ。
とりあえず、大学4年間は先送りできても、格差社会の厳しさに打ちのめされる日は、いずれやってくる。
東京都の旧第一学区にある都立高校は、日比谷を筆頭に、中高一貫化した九段、小山台、三田の順で、進学実績が良い。
この三田に続くのが、雪谷と田園調布と隣接学区の広尾になるが、三田との偏差値の差は10程度開いてしまっている。
つまり、三田と、雪谷や田園調布や広尾の間には、難易度的な「真空地帯」ができあがっているのである。
この真空地帯は、そのまま学歴フィルターの壁となる。
三田までなら、学歴フィルターに掛からない大学へ進める可能性があるが、雪谷や田園調布や広尾は、ごく一部を除き、ほぼ全ての卒業生が将来に学歴フィルターで辛酸を舐めることになる大学へしか進めない。
それなら真空地帯を飛び越えるだけの努力をすればいいと思うかもしれないが、現実は甘くない。
港区の公立中学から三田以上を狙えるのは、概ねクラスで1番、学年で3番くらいが目安になる。
90%どころか95%程度以上の公立中学生は、中学卒業時点で、学歴フィルターに掛かってしまう道にしか進めない。
残る選択肢は、学歴フィルターとは無縁の人生を歩むしかない。
学歴フィルターから解放されれば、人生の選択肢はそれなりに広がる。
ただし、それが夢見た人生になるかどうかは、その人の生き方しだいにはなる。
中学受験で成功できるかどうかで、概ねその先の選択肢が決まってしまうのが、中学受験の恐ろしさでもある。
中学受験で満足いく結果が出なかったから、高校受験で仕切り直そうと考えても、高校受験で逆転人生を手に入れられる可能性は高くはないという実態を、知っておくべきだろう。
全国に進学校型の公立中高一貫校が増えれば増える程、格差は、大都市圏だけでなく、日本全国津々浦々に拡散していくことになりかねない。
通学可能な範囲に公立中高一貫校が誕生したことを喜んでばかりはいられない。
受検するかしないかに関係なく、受験するかしないかに関係なく、
12の春に、あなたの子も、意図せず、選別されてしまうことになるからである。
この現実に、どう向き合うべきか。
子に選ばせるには、まだ幼すぎる。
悲しいかな、公立中高一貫校の存在が、格差を増幅させてしまうのである。
大都市圏では、私立中高一貫校がある限り、公立中高一貫校だけが格差を増幅させてきたのではないから、公立中高一貫校を廃止しても、なんら解決にはならない。
私立中高一貫校を廃止しても、塾や予備校がそれに代わるだけだから、これもまた解決にはならない。
ならば、12の春に勝ち残るしかない。
幼さの残る12才だが、現実は厳しい。