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三田学院

[2022年10月7日]

【都立中】矛盾のようで矛盾でない

一つの中国を支持するが、
台湾への侵攻は認めない

米国高官の発言は矛盾しているように聞こえなくはない。

多くの人はなんとなく聞き流しているかもしれないが、ここに重大な意図が隠されれている。

中国共産党幹部は、内政干渉であると強く反発し続けているが、米国はまったく気にしていない。

米国の政策は一貫しているからだ。発言に矛盾があるなどとは思っていない。

「一つの中国」を認めることは、台湾の独立を認めないとも解釈でき、中国共産党の主張する「台湾は中国の一部」という考え方を認めることになりそうだが、米国高官の発言には巧妙なトリックがある。

中国共産党幹部は、それを理解しているからこそ、強硬なまでに反発しているのである。

中国共産党の主張する「台湾は中国の一部」という概念には、「台湾地域は中国共産党が支配する地域の一部」であり「ただ現在は勝手に代表者を決めて中国共産党の統治に従っていない地域」という考え方がある。

しかし、米国は「台湾は中国共産党が事実上支配する中国の一部だ」とは言っていない。少し強引に簡潔化して言えば「中華人民共和国として統治されている地域も、中華民国として統治されている地域も、ともに中国だ」という立場である。

一つの中国の中に、二つの異なる統治システムが存在し、それぞれが別々の地域を統治していて、このため世界は(国連は)、途中から、人口も面積も大きい地域を統治している片方を中国代表として容認することにしているが、かつてはそうではなかったように、未来永劫そうし続けるとまでは言っていないのである。

もっと、歯切れよく言えば、現在の台湾が、つまり中華民国が、中国共産党支配地域を呑み込む形で、一つの中国を実現することを排除していないのである。

あるいは、中国共産党政府が消滅して、台湾政府も消滅して、全く新しい中国政府が誕生するかもしれない。

ここまで書けば、冒頭の発言に、矛盾がないことが理解できるだろうか。

一つの中国を支持するが、
台湾への侵攻は認めない

そして、米国バイデン大統領は明言した。

人民解放軍が台湾を武力侵攻したら、米国は軍事介入をし、台湾を守る、と。

厳然たる事実だが、人民解放軍は中国の軍隊ではなく中国共産党の軍隊である。そして、台湾には台湾の軍隊がある。

国際政治学者ではないので、用いた用語や表現が学術的に適切かどうかまではわからないが、米国政府の発言の解釈というか理解としては、こうなるのではないだろうか。しかも、米国の行動も、発言とおなじく、この解釈には「矛盾しない」であろう。

政治的な側面に視点を向けると、中華人民共和国の事実上の国家代表は、有権者による選挙によって選ばれていない。つまり正当で正式な代表者ではない。

議会に相当する会議の議員も、有権者による選挙で選ばれていない。共産党員の中から選ばれている。中華人民共和国内における共産党員の人数は、人口の過半数を超えていない。

つまり、「中国」とされる大部分を統治している統治機構は、そこに暮らす人々から正当な手続きによって認められたものではないのである。

一方で、台湾では民主的な手続きにより、代表としての総統が選ばれていて、その観点からは、正当性がある。

米国が台湾に肩入れする理由は、この他にもある。

経済上の観点や人権上の観点などである。国連への配慮もあろう。これらを詳しく書くと長くなるので、今回は割愛し、いつか機会があれば書くことにしたい。

世界情勢は、あるいは歴史は、どこから動くか、正確に予想するのは容易ではない。

東アジア情勢は、台湾から動くかもしれないし、中央アジアから動くかもしれないし、南アジアから動くかもしれないし、朝鮮半島から動くかもしれないし、旧満州地域から動くかもしれないし、シベリアから動くかもしれない。

そう考えて社会科を学んでおけば、それこそ学問が身を助けてくれるかもしれない。

「矛盾のようで矛盾でない」

今日は、これについて記しておきたかっただけだ。

矛盾していることを見抜けることがまず重要だが、
矛盾していないことを見抜けることも重要である。

新しい入試問題では、そうした力が、問われるようになってきている。

これは社会科に限られたことではない。数学でもしかり、算数でもしかり、理科はもちろん、国語でもしかり、英語でもしかりでなのである。

矛盾しているか、矛盾していないかは、学びの本質にかかわる命題なのである。


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