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三田学院

[2023年10月29日]

【都立中】減少した受検生はどこへ

倍率の低下傾向が続いている都立中入試。

かつては10倍前後もあった倍率はすでに5倍を切っている。倍率3倍台代のも驚かなくなった。近く倍率2倍代の都立中が現れても不思議ではない。

ただ、合格難易度は年々上昇傾向にある。男女別定員を廃止すれば、制度変更による全体の難易度上昇も予想される。

消えた都立中受検生の多くは、いったいどこへ行ったのだろうか。

多くの人は、高校受験に鞍替えしたと思うかもしれない。

実は、そうでもないのである。

都立中の受検生数が減少傾向に転じた頃から、新たなブームが起こり始めていた。

『ゆる私立中受験』

私立中受験の指導者の中から、しばしば『ゆる私立中受験』に警鐘を鳴らす発言などが聞こえ始めるようになったのが、都立中受検生の減少が顕著になった頃と、ほぼ一致している。

『ゆる私立中受験』組は、当初、私立中受験の専門家の目には、新人類や宇宙人のように映ったかもしれない。まさに、未知との遭遇であったであろう。

どうやら、消えた都立中受検生の多くが、中堅や中位の私立中高一貫校を目指して、私立中受験指導塾に流れ込んだようなのである。

多くは大手塾へ流れ込んだ。

これも、かつての「都立中記念受検生」の行動に酷似している。塾探しを真剣に行わなければ、大手塾しかヒットしないので、大手塾へ通うという選択しかできないのである。

大手塾の中には、早期に募集を停止または終了しなければならない教室が、続出した。

ただ、そうした動きをした受検生親子には、「消えた受検生」だという、ハッキリとした自覚がないように感じられる。

かつてなら「都立中記念受検生」や「都立中チャレンジ受検生」になったであろう受検生は、『ゆる私立中受験生』の自覚があるかないかは別として、はじめから『私立中受験生』の顔をして、中学受験準備をスタートさせたのである。

教育系YouTuberなどのように「顔出し」はしていないので、一般人と見分けがつかないように(身バレしないように)、いろいろな機会に、いろいろな場所に出没しているが、保護者どうしの会話などから、しばしば興味深い言葉が聞こえてくることがある。

「2月1日は私立中学を受験して、3日は都立中を受検して、どちらも残念だったら、(地元)公立中学に進学させるつもり・・。」

「1日も2日も4日も、私立○○中学だけを受験して、すべて残念だったら、(地元)公立中学に進学させるつもり・・。」

本気の私立中受験生の保護者に、地元公立中学という選択肢はない。「安全校」や「抑え校」を受験日程に組み入れて、どこかの私立中からは合格を取らせ、進学させる覚悟であることがほとんどである。

3日に都立中を組もうとしていた、この『ゆる受験生親子』は、その本気度の低さから、最終的には都立中は出願しないか、出願しても当日は欠席するのではないだろうか。3日にも私立中の入試を組まなければ、全滅必至の状況で直前期を迎える可能性が高いからだ。

かつての「都立中記念受検組」を彷彿とさせる、行動パターンや方針パターンであるが、しかし、受験生親子に、その自覚はないようだ。

昨今の私立中学受験ブームは、かつての『都立中記念受検組』が支えている可能性がある。

その証拠に、増えた私立中受験生の多くは、難易度が中堅や中位の私立中にしか合格できそうにないような受験生たちだからである。模試のデータを解析すれば鮮明である。

かつて、都立中には合格できそうになく、難関私立中にも合格できそうになく、結果として平易な難易度の練習受検として受検した私立中からしか合格がもらえず、最終的には中学受験をしなかった層とともに、地元公立中学へ進学することになった層と重なる。

批判する気など、毛頭ない。

どんな受験方針や受験対策を取るかは、それぞれの受験生親子や受検生親子の自由だからだ。

ただ、消えた都立中受検生が、どこに行ったのだろうかと、考察してみただけだ。

もし助言を求められたとすれば、私立中受験対策塾では私立中対策に忙殺されて都立中対策には十分に手が回らなくなり、適性検査対策に専念した場合に比べて、おなじ実力であれば大幅に合格可能性が下がってしまうことに気がついた方がよいことをお伝えしておきたい。

都立中対策に時間や手間を割けば割くほど、意中の私立中の合格可能性を下げてしまうことにもなり、ジレンマに陥る危険性がある。

どちらも中途半端になってしまえば、小6になってから、目標だった私立中にも都立中にも合格できそうにないという、焦りと絶望感に襲われることになりかねないからだ。

都立中を目指して小3や小4から全力で対策をしてきた子でさえ、青色吐息でやっとの思いで合格に滑り込むような難関なのだから、『ゆる中学受験』をしているようでは、合格を勝ち取れる可能性は高くはならない。

『ゆる私立中受験生』層は、私立中受験ブームが沈静化した後、次はどこを(何を)目指すようになるのだろうか。

もし、高校受験でリベンジすればいいと安易に考えていたなら、また見込み違いに翻弄されるであろう。

なぜなら、中学受験で潤沢に入学者を集められた私立中高一貫校が高校募集定員を相応に(倍返しで)絞ってくるし、都立高校は公立中学の生徒数が減少すれば都立高校の定員をそれに合わせて減らすからである。

中学からの入学者を十分に確保できた私立中高一貫校は、高校募集における推薦入試や併願優遇入試の基準まで厳しくしてくるから、楽勝かと思った高校受験が想定外に厳しいと感じることになるだろう。

具体的には、中学受験でなら合格できたのに、高校受験では出願さえできない、ということが起る。

どこであっても、いつであっても、本気を出さなければ、成功はない。

これは受験悲話なのではなく、自然界のルールなのかもしれない。


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