[2024年6月1日]
遠い小中高時代をふりかえってみると、姿をすぐに思い出せるのは、すぐれた指導者だけである。
小学生時代から塾で英語を指導してくれた慶大卒のH先生、高1で数学1Aと2Bの指導をしてくれた東大卒のK先生、高2で世界史を指導してくれたK先生、高3で倫理を指導してくれた広大卒のM先生、高3で生物2と生物演習を指導してくれたN先生、高1で古文・漢文の指導してくれたO先生などである。
どの授業も圧巻で、特に数学のK先生は解答解説にはないエレガントな別解ばかりを紹介してくれるので「別解のK」というあだ名がついていた。教科書や問題集の著者を超えていたのだと思う。後に東京大学や国立大学医学部医学科に進学したクラスメートたちが「K先生の授業は予習してきても想定外の授業になる・・」と感想をこぼしていたことが思い出される。世界史のK先生も世の常識を遥かに超えていた。教科書や資料集には載っていないことを淀みなくしゃべりだす。おそらく難関大学の世界史入試問題のレベルを超えていたと思う。生物のN先生の授業はどの受験参考書のレベルも超えていた。授業中に居眠りや内職をする生徒がいなかったのは、聞き逃すのはもったいないと感じていたからであろう。
中学時代にも忘れられない思い出がある。中2歴史授業で授業中にノートをチェックして廻っていたF先生から突然に「お前が授業をしてみろ」と言われたことである。社会だけでなく予習型の勉強をしていたのでノートに予習の形跡を見つけた先生がそう思いついたのである。今の探求授業のはしりである。もちろん中学生に50分の授業などできない。15分だったか20分だったか記憶にないが早々に切り上げて席に戻ったと思う。その後に足らない部分を補足しながら授業をしてくれたことが記憶に残っている。その後もしばしばあてられるので、歴史の予習に深夜午前2時まで費やしたことがある。おかげでその後に歴史の勉強で苦労したことがない。授業することの難しさや苦労を学ぶことができたことは後の財産となっている。
不思議なことに、ともに学んだ学友の顔まで、鮮明に思い出せる。
そうでない指導者の顔や名前は容易には思い出せない。
最悪だったのは、高校生時代に親に勧められて試しに通った超有名予備校2校とその講師たちである。授業のレベルは通っていた高校の授業より遥かに低く、指導者としての魅力はまったく感じられず、残ったのは学力ではなく絶望であった。有名予備校の名前が入ったテキストは、その後いっさい開かなかった記憶がある。大学には現役で合格するしかないと、固く決意させてもらったことだけが、収穫となった。
大学受験にしろ、高校受験にしろ、中学受験にしろ、塾に行けば指定教材があるし、大型書店へ行けば市販教材が溢れている。
しかし、おなじテキストで学んだ受験生が、おなじ入試結果になるとは限らない。むしろ、ある受験生はあるテキストで成功し、別の受験生はおなじテキストで敗北するのが常である。失敗する受験生の方が遥かに多い。
しかも、あるカリキュラムで成功する受験生がいる一方で、おなじカリキュラムで失敗する受験生がいる。失敗する受験生の方が圧倒的に多い。
それでいて、受験に成功するためには、優れたテキストと優れたカリキュラムが必要だと、信じて疑わない親子が少なくない。
驚くことに、受験に成功するためには、優れたテキストと優れたカリキュラムが必要だと、信じて疑わない塾講師や家庭教師がいることである。
さながら、過激な宗教団体の伝道師と信者たちのようである。
伝道師は信者の多くを受験で失敗させ、信者の多くは受験に失敗することになるが、最期に「(受験での)失敗はムダにはならない、むしろ貴重な経験となる、あたなは大きく成長した、必ず幸せになれる」などと、過激な宗教団体が信者を自爆テロリストとして育て上げるかのような殺し文句まで用意して、伝道師と信者の心を偽りの自己正当化へと向かわせ、不満や怒りが宗教団体へは向かわないようにと巧みに仕組む。
大手予備校や大手塾の栄枯盛衰が激しいのは、虚像はいつか崩れ去るためであろう。そしてまた、新たな伝道師の集団が、無垢な信者の獲得を始めるからであろう。
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