パソコン版を見る

三田学院

[2024年11月25日]

【私大入試】歴史総合が明暗を分ける

現高校3年生が立ち向かう次の私立大学文系学部入試で台風の目となりそうなのが「歴史総合」である。

現高校3年生から新課程入試になり、数学では「数学C」が、地歴では「歴史総合」が新たに加わる。この他にも変更点はあるがこの2つが大きな変更点となる。

数学Cの複素数平面は選択問題となる予定なので、数学に関しては文系受験生は選択問題でベクトルを選択すれば実質旧方式の数学2Bと変わらないが、日本史選択や世界史選択の受験生は歴史総合が必須となるので、この変更点は大きなインパクトがある。

特に歴史総合を学んでいない浪人生にとって歴史総合は鬼門となりそうである。

歴史総合の検定教科書を確認すると、範囲は「大航海時代以降の日本史を含む世界史」となる。

勘の良い人ならもう気がついたであろうが、日本史選択の受験生に負担が大きくなりそうである。

世界史選択者は特定の国だけの歴史を学ぶわけではないから、日本史の近現代史が追加になっても対策の仕方に大きな変更は起きない。しかし日本史しか対策してこなかった受験生が世界史まで対策しなければならなくなると対策が容易ではない。

歴史総合の配転比率は約20%になると予想されている。

世界史選択の受験生はこの約20%のほとんどが日本史関連から、日本史選択の受検生には約20のほとんどが世界史から出題されることになろう。

歴史総合をほぼ丸々失点したと仮定すると、日本史や世界史なら80%の得点率だった受験生は、80%×0.8で約64%の得点率まで下がってしまう。

共通テストを受験しない私立文系の伝統的な受検生であっても影響は大きい。首都圏の難関私立のうち個別学部試験で歴史総合を出題しないとしているのは早稲田大学の一部学部くらいであるからだ。

その早稲田大学も、共通テスト併用入試を行っている政治経済学部などは歴史総合が出題範囲になるし、共通テスト利用入試では歴史総合が必須出題範囲になるので、歴史総合なしで受験できそうな学部は教育学部くらいしかなくなる。

このため早稲田大学の次の入試は教育学部が大激戦になりそうな気配である。社会科学部が新入試で共通テスト併用になるので、何が何でも早稲田(の本部キャンパス学部)に合格したい受験生は、この教育学部に殺到せざるをえないのである。

慶應義塾大学は商学部を除き歴史総合が出題範囲となる。経済学部はもともと近現代中心の出題だったので、世界史を選択しても日本史を選択しても世界史と日本史の融合問題が出題の主力となるかもしれない。もちろん世界史と日本史のそれぞれの問題を配列する可能性もある。

慶應義塾大学の三田キャンパス系学部を地歴で合格することを目指すなら、歴史総合を攻略できていない受験生は商学部しかチャンスがなくなる。しかも商学部は数学選択の定員の方が圧倒的に大きいので、商学部を日本史選択で合格を目指す受験生は、血だらけの戦場で生き残りを図ることになる。

首都圏の難関私立大学で歴史総合を出題範囲としない大学は少数派である。

よって歴史総合の対策を十分にできなかった受験生は次の入試で敗北者となるリスクが高い。

歴史総合の入試対策教材がまだ十分に揃っていないことも鬼門となる。このため現実的な対策は以下のようになろう。

日本史選択者:日本史+世界史の近現代史
世界史選択者:世界史+日本史の近現代史

ここで注意しなければならないのは、歴史総合の範囲は「大航海時代以降」であるという点である。

1492年にコロンブスがサンサルバドル島に到達した年をもって大航海時代の幕明けとなるが、それは同時にスペインがグラナダを奪還してイベリア半島からイスラム勢力を一掃した年でもある(レコンキスタ完了)。

ヨーロッパを中心としたグローバル化が急速に進み始めただけでなく、世界がヨーロッパ中心の歴史に組み込まれ始めた年でもある。

日本史を題材にすれば次のようになろう。

織田信長 → ポルトガルとの連携
豊臣秀吉 → スペインとの連携
徳川家康 → オランダとの連携

織田徳川連合軍は「長篠の戦い」で武田勝頼に大勝するが、これは信長が堺の湊をおさえていてポルトガルとの貿易を実質的に独占できたことが大きい。大量の(火縄銃の)弾薬をポルトガル商人から大量に手に入れることができたことで戦国最強と謳われた武田軍を窮地に追い込むことができたのである。一方で武田軍の弾薬不足は深刻になっていた。そもそも長篠の戦いは弾薬不足を補うために長篠城近くにあった鉱山の奪取を武田軍が狙ったことに端を発している。援軍を送るだけでなく自ら参戦した信長には、この闘いの意味が読めていたのであろう。

おなじことは秀吉とスペインや家康とオランダでも起きた。世界最強を誇ったスペイン無敵艦隊がエリザベス1世が力を入れて育てたイギリス海軍に敗北し(1588年)、スペイン国王フェリペ2世が急死(1598年)したことで豊臣政権は急速に弱体化していく。大坂の陣で豊臣軍を追い詰めたのは、当時世界最大の軍事技術輸出国であったオランダから家康が急遽取り寄せた当時の世界最先端の兵器であった大筒(大口径の長距離砲)であった。

余談ではあるが、このスペイン無敵艦隊が壊滅するアルマダ沖海戦の前哨戦となったカリブ海貿易をめぐるスペインとイギリスの覇権争いは、世界史受験生なら承知していることとは思う。それはロンドンの南東部(ブリクストン地区)にカリブ系住民が今でも多いことにもつながっている。映画パイレーツ・オブ・カリビアンは大いに参考になると思う。イギリスの女性有名ポップ歌手の歌詞にもなっていて、ブリクストンのバックストリートガールの心情を歌い上げている。

さらにおなじことが幕末でも起こる。

薩摩 → イギリスとの連携
幕府 → フランスとの連携

当時世界の覇権はイギリスが握っていて、その背景にあったのは圧倒的な経済力と軍事力であった。このため、薩摩を中心とした新政府軍の勝利はほぼ予測できたことではあった。

このしばらく前に、ワーテルロー(ウォータールー)の戦いでフランスのナポレオン軍はイギリス陸軍に敗北している。ロンドンとパリを結ぶ高速列車ユーロスターのロンドン側の始発駅がウォータールー駅であることは、フランス人にとって心地よいものではないだろう。

アヘン戦争とアロー戦争で当時のアジアで超大国であった清朝を圧倒したイギリスは、当初日本の武力制圧も視野に入れていたが、1863年の薩英戦争における薩摩軍の奇跡的な勝利により、当初敵対していた薩摩との連合に舵を切るというイギリス対日政策が大きく転換した契機となり、その後の日本史に大きな影響を与えたことは理解しておくべきだろう。

日本史を世界史的な視点で俯瞰すると、旧来の日本史教科書に書かれていた歴史が違う景色を背景にして見えるようになるのである。

これが世界史を必修にしようとして挫折し、そのリベンジを歴史総合に賭けた文部科学省の意図するところなのかもしれない。

日本史受験生は、そうした背景を知った上で、日本史の近世と近代と現代を対策し直す必要がありそうだ。

これから難関私立大学文系学部を数学ではなく地歴で攻略を目指す受験生は、世界史を選択しておいた方がより安全となろう。

日本史選択受験生の健闘を祈るばかりだ。


*クリックで応援をお願いします。

PVアクセスランキング にほんブログ村

にほんブログ村 受験ブログ 公立中高一貫校受験へ
にほんブログ村