[2009年8月12日]
現在の中学受験の情報を多様な切り口でとらえている受験指南書。著者は日能研の全盛期を支え、現在は三大模試の一つである「統一合判」を実施する「首都圏模試センター」代表をなさっている樋口義人先生である。
樋口先生とは、私立中学校との懇談会や教務研究会で何回か、お話しさせて頂いているが、中学受験が盛んになる草創期から、全盛期、そして現在まで、常に受験のまっただ中で活躍されてきているため、中学受験に関しては裏も表も知り尽くしておられる。
今回のこの本も、その経験に裏打ちされて書かれているので、最近、出版されている凡百の中学受験指南書と比べ、迫力・説得力が違う。
また樋口先生が、私立中学校に豊富な人脈をお持ちなので、なかなか知ることができない中学校の内面、受験票の番号や寄付金、また縁故入学について等、が書かれている。
そのほかにも、入試当日に気をつけること、併願出願の決め方など入試に役立つ情報が満載の本だが、一番、首肯したのは、最後に書かれている「まずは具体を」という提言である。
勉強方法や偏差値ばかりに目がいきがちな中学受験だが、実は上位校ほど、頭の良さだけではなく、生徒の全人的な傾向、好奇心があるか、自分の頭で考えられるか、前向きか等を見ている。
そのような好奇心や自分の頭で前向きに考えられるかなどは、様々な子供同士の遊びや、家族・友達とのふれあいを通して、育まれるものだ。
また10歳から12歳くらいの子供たちにとって、中学受験に必要な「抽象」を理解することは難しい。その際に役立つのが、「具体的な体験」をどれだけ持っているかである。
実際、理科で、昆虫のことを教えていても、「トンボ」を実際に見たことがある生徒と見たことがない生徒では、理解に差ができてしまう。農作業を体験して、田んぼに入ったときの水の冷たさを知っている子は、「冷害」のことを説明しても、体験と結びつき、腑に落ちることで、すぐに理解ができる。
もし、このような体験がないと、理科も社会も結局、ただの暗記になってしまうため、なかなか覚えきれないのだ。
中学受験のための勉強がだんだん低学年化する傾向があるが、基本的な学習をきちんとこなせば、後は、様々な体験、遊びや農作業、キャンプ、家族との旅行などをふんだんにさせ、人間としての幅を広げた方が、後々、中学受験にも役立つことが実は多い。
中学受験の常識・非常識
著者 樋口義人
出版社 角川書店
ISBN 978-4-04-710203-3