[2013年5月10日]
昔,イルフォードのマルチグレードという画期的な印画紙があった。
フィルム写真をプリントすると印画紙の種類によって印象が変わる。
カッチリ,クッキリとコントラストの高い表現(硬調という)にしたり,諧調豊かな表現(軟調)にしたり,印画紙の種類で調節していた。
それが,1種類の印画紙なのにいろいろな表現が可能だというので,特に天体写真愛好家の間で大流行した。
一般的には,フィルムのラチチュード(表現できる範囲)よりも印画紙のラチチュードがせまいので,フィルムに表現されている情報を1枚の印画紙に漏れなく表現することは難しい。
なので,露光時間を短くした方がいい部分と長くした方がいい部分を細かく分けて,部分的に露光を減らしたり(覆い焼き)増やしたり(焼きこみ)して相当にめんどうなことをしていた。
それで,マルチグレードを使うと,ラチチュードだけでなく,硬調にしたい部分と軟調にしたい部分も1枚の印画紙で使い分けられるので画期的だったのだ。
星雲や月面は普通の被写体よりもデリケートで,それをうまく表現するのが難しく,だからこそそれを追求するのが楽しいというマニアックな世界だった。
印画紙に表現する前に,フィルムにちゃんと写っていないと話にならない。
フィルム現像ももちろん自分でやるのだが,フィルムの選択と現像液にも凝っていた。
フィルムは天体写真の場合,なるべく高感度にしたい。
露光時間が長くなりすぎると,赤道儀で追尾していても星像が動いてしまうから。
一方,諧調豊かな微粒子フィルムは感度が低いので,その兼ね合いが難しい。
よく使われていたのはテクニカルパン2415というフィルム。
これは,水素ガスで感度を上げる処理をして,現像液と温度設定によっては非常に微粒子に仕上がった。(フィルムは銀の微粒子が成長して像をつくるが,その粒子が細かいほどなめらかに表現できる)
現像液によってフィルム自体が硬調になったり軟調になったりするので,それも各自で工夫していた。
バリバリの硬調にしたければD19という現像液。
軟調にしたければPOTAを使う。
POTAは市販されていないので,自分で調合する。
つまり,写真屋で無水亜硫酸ナトリウムとフェニドンを買ってきて天秤とメスシリンダーで測って混ぜるのだ。
ミニコピーフィルムという超微粒子のフィルムがあって,普通に現像すると硬調になりすぎるのでPOTAを使用してちょうどいいみたいな感覚。
このようにやっていたのはもう20年も前の話。
今は完全にデジタルでやっている。
デジタルの処理はフォトショップなどのソフトでやっているが,これが当時の暗室作業よりも難しく奥が深い。
第一,昔は白黒しか扱ってなかったが,今はカラーデジタル。
色の出し方が難しい。
特にオーロラの写真などは,色調も諧調も微妙に表現したいが,なかなか思うようにできない・・・
処理前
処理後
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