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尾崎塾
富田教室

[2014年5月12日]

モンスターペアレントは実在するのか

さて,昨今の学校では「モンスターペアレント」という生き物がいて,学校や教師にトンデモない理不尽かつ自己中心的要求を突き付けてくると聞いたことがあるだろう。

そのような怪物が実在するのか。

世の中,新聞・テレビ・インターネットなどでいろんな情報が入ってくる。そんな中で「こんな要求をするトンデモな親がいた」などと断片的に話が伝わってくる。
何百万人もこどもがいるのだから,そんな親もいるのかもしれないが,それとて,話のやりとりを断片的にしか見聞きできない。

しかも,ほとんどの情報ソースが非常に偏っていることにお気づきだろうか。
そう,学校や教員側からしかそのような情報は伝わってこないのだ。

そりゃそうでしょ。「アタシ,学校にこんな無理難題を言ってやったのよ,ウフフッ」みたいな親はめったにいないだろう。学校を困らせる理不尽な要求をしたことを自慢して得する親が世の中に多いとは思えない。
情報ソースはほぼ学校側から発信されるのだ。

教員A「いやあ,今度の親はこんなクレームしてきて,こんな要求したんだよ。」
教員B「そりゃたいへんだったな。でもその要求は理不尽だな。モンスターペアレントって本当にいるんだな。」

これだと,一見,教員Aが理不尽な要求をされて困っている様子がうかがえる。

ちょっと待った。
このケース,実は最初,親御さんは少しだけ教員Aに質問をしただけなんだ。
「ウチの子,漢字が苦手なので,心配してるんです。特に漢字について指導をどうされていますか?」

これが,ちょっとビクビクしている教員Aにはこのように聞こえるんだ。
「ウチの子,漢字が苦手なのは教員Aさん,あなたの指導が足りないからでしょ?どんな指導してるんだ?」

実は,ちょっとこの教員,漢字の指導については教材研究不足で,あまりちゃんと指導できていなかった事実があったりする。(これは教員に悪気はなく,むしろ他の指導に時間を割いていたので手が回ってなかったというのが正しい。)
だからこそ,少しうしろめたい気持ちがあったのでそう聞こえたというのもある。
数か月経って,一向に漢字を覚えない子に,この親御さんがまた質問した。
「A先生,前回の懇談でお伝えしたように,漢字がダメで,一向にできる気配がないようなのですが,何か工夫していただけませんか?」

これも,親御さんとしては当然の要求というか相談だ。
教員Aさんがちょっと工夫してあげたらよいだけの話にも聞こえる。

ところが,真面目なAさんにはこう聞こえてしまう。
「A先生,あれだけ言っといたのに,成績が上がらないじゃないですか。どうしてくれるんですか。ウチの子のために特別に何か工夫してもらえませんか?」

実際のところ,真面目なA先生は生徒のために,むしろ他の先生よりも覚えやすいように自分の時間を割いていろいろ教材を工夫しているのだ。それ以上の工夫はしろと言われても困ってしまう。
そしてA先生はこう答えた。
「いや,今のやりかた以上のことはできないですし,多くのお子さんはそれで成績が伸びているので・・・」

親御さんにはこう聞こえたりする。
「いや,他の子ができるのにおたくの子だけできないのだから,おたくの子の責任でしょう。教材は変更しません。」

こうして,親御さんには少しの不信感が残ってしまう。

このようなことが2回,3回と積み重なると,誤解と不信がどんどん広がって,やがて,親御さんとしては,
「あれだけ言っているのに,結局ちゃんと見てくれてない。前に言ったあれはウソだったの?じゃあ,これはどう?それなら一層のこと,こうしてくれないとウチの子はずーっとできないままじゃないの?」と疑問がエスカレートしていくのだ。

さて,本質的な原因は,実はその子が全く漢字の時間に怠けていて覚える気がさらさらないという現実があったりする。
先生の熱意や親の気持ちとは全く関係なく,その子は漢字を勉強しないと決めていたのだ。
別に,これは誰も悪くない。
こどもってそういうものだ。
私自身,そういう子だったので,それを咎められても困るし,かといって,先生も親も誰も恨んでいない。

ところが,ところが,こどもの感性とは全く別のところで学校の先生と保護者には埋められない溝が形成されてしまう。

やがて,やりとりの中で売り言葉に買い言葉的に,行きがかり上親も引けなくなって「それならウチの子だけ特別にコレをやってもらわないと困ります!」と理不尽な要求をしてしまうのである。

そして,こじれているのを同僚に見つかると,
「いやあ,こんな理不尽なこと言われて困ってるんだ。」となる。
それまでの経緯を説明せずに聞くと,
「そりゃ気の毒だな。世に言うモンスターペアレントって本当にいるんだな。」となるのだ。


すべてがこういうケースではない。
だが,多くはこのように少しの誤解からはじまっている。
そして,誰も悪気はないし,その生徒のために普通に頑張っている。
端的に足りない部分を言えば,教員の力量だ。
その誤解を生んでしまうような,教員自身のとらえ方。
親御さんは自分のこどもが心配なので,純粋に質問されているだけなのだ。
決して教員を責めようと発言されていない。
それを,何か自分に非があるよう思われては困るのでビクビクするのがよろしくない。
自信をもってその生徒のためにやっていることを丁寧に説明して差し上げたらよいだけ。
むしろ,他の先生より熱心にやってることくらいすぐに伝わる。
それが伝われば,親御さんの不安は安心に代わり,関係がおかしくなるわけがない。

こういうことは昔からよくあった。
そして,そんなには問題にならなかった。
しかし,最近はこれがマスコミなどで取り上げられて,ドラマになったりして「モンスターペアレント」というトンデモな怪物がとても多いような印象を世に与えている。

すると,今度は別の問題が生じてくる。
ほんとうに指導力不足のダメ教員がマズイことをした場合。

親御さんの質問にまともに答えられるはずがない。
ちゃんとやると言っておきながら,できていない事実があったりするのだ。
すると,指導力不足の先生はウソをついてごまかすことになる。
そして,そのウソがばれる。
ついに,親御さんの怒りに触れ,教員を代えろだのの要求となる。
そういう教員が「いやあ,モンスターペアレントにつかまっちゃって,困ってるんですよー」と逃げることが可能になってくるのだ。
これは双方によくない。
教員は指導力不足を指摘してもらったチャンスなのだから,これを機会に指導力アップすればよかった。
しかし,この「モンスターペアレント」という便利な呪文を唱えたら,なんと非は保護者の方へ転じてしまうのだ。

世の多くの保護者もこの呪文の存在を知ってしまった。
もしも教師におかしなことを言ってしまって,この呪文を唱えられたら最後,自分があの忌まわしい怪物になってしまうのだ。
したがって,先生に少し質問したくてもできない状況が生まれているのだ。


私の経験では,そういうモンスターに出会ったことがない。
これは幸運なのか?
いや,決してそうではないと言い切れる。
だって,親御さんといっしょに,生徒さんの将来について真剣に考えるというスタンスから一歩もずれないので,誤解の入る余地が一切ないから。
img1 というか,いつもその親御さんが考える以上にその生徒さんの将来につながる内容を提案していると思っている。
単純な話で,その生徒さんが世の中のどこにどう役立っていくかを考えるだけなのだ。
そして,それこそが親御さんの求めていることだから。

前に勤めていた学校で,やはりきまって親御さんとトラブルが絶えない先生がいた。
その先生のクラスにだけ,たまたま運悪くモンスターが混ざるのか。
そんなわけない。
確率的には,私や他のクラスにいつも0人で,その先生のクラスだけいつも3人混ざるなどありえない。
これは何を意味するのか。
先生と保護者の誤解以外ないではないか。
その先生は,悪く言えば自分の保身を優先するタイプなので,どうしても保護者の欲しい回答とずれたやりとりをする。そして不信が増殖していって,いつもこじれるのだ。
今ならその先生は胸を張って言うだろう。「今年もまたモンスターに悩まされたよ。」

このように,モンスターペアレントはそのへんに「存在」するのではなく,教員が保身目的で「創る」ものなのだ。(マスコミが視聴率目的で増殖させている事実もある。)
そして,それを認めた時点で何も生まれないゾーンに突入する。

これは,昨日書いた「はずれ先生」とある意味,表と裏の関係にある。
教師が保護者を「モンスターペアレント」と認定する。
そこに何もプラスは生まれない。
保護者が教師を「はずれ先生」と認定する。
そこにも何も良いことが生まれない。

そのように分類する発想をなくすことが,今の日本の教育を正常化する第一歩ではないかと思って長文を書いた。





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